自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

Girlガール 2018年

男の身体に女の心が宿っている

ベルギー、ルーカス・ドン監督

ドン監督は2009年ベルギーの新聞のトランスジェンダーの少女がバレリーナになるために奮闘しているという記事からこの映画を思いついた。

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トランスジェンダーの15歳のララは本名をヴクトルといい、父と6歳の弟との3人暮らしだった。ララは男として生まれたが女としてバレリーナを目指していた。国内で有数のバレエ学校に入学する。

男性の二次性徴をホルモン療法で抑え、バレエを踊るときは股間にテーピングしていた。文字通り血のにじむような努力で厳しいバレエのレッスンに耐えていた。

 

性転換手術を望んでいたが、今はまだ身体が手術に耐えられないので時期を待っていた。手術後は女性の二次性徴を人工的におこす予定だった。

しかしレッスンを続けるうちに好奇の目に耐えられなくなる。ララは手術を待ちきれずに医師に相談するがいま手術するのは危険だと言われる。

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ララは女の子になりたいだけだった。しかし手術をしても何も変わらなかったら、と思うと怖くて不安になる。

そんなララを見て父は心配し声をかけるが、ララは大丈夫としか言わなかった。父は「大丈夫としか言わないから話し合えない。辛いと言えば話し合える」と怒りをあらわにする。それでもララは「大丈夫」と答える。

 

ララの身体は生命力にあふれ輝いていた。ララが男なのか、女なのか、わからなくなる。

神の与えた肉体の呪縛にララはある決断をする。それは私が初めて見る強烈なシーンだった。

子鹿物語 1946年

開拓者たちがこの国をつくった

アメリカ クレランス・ブラウン監督

1878年フロリダ、開拓地で農作業をつづけるバクスター一家、11歳の少年ジョディは父ペニー、母オリーと3人で暮らしていた。

町から離れ、近くにはフォレスト一家が住んでいるだけだった。未開の森林での暮らしは厳しいものだった。明るかった母は3人の子供を亡くしてからは笑うことがなかった。

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ある日、父が毒蛇に噛まれ、とっさに近くにいた雌鹿を殺し、その心臓と肝臓で毒を吸い出して一命をとりとめた。しかしその雌鹿には乳離れをしていない子鹿がいた。

ジョディは両親に頼み込んでその子鹿を飼うことになる。遊び相手ができて幸せな日々が続く。

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子鹿の名前は身体が不自由だった友達がつけてくれた「フラッグ」だった。しかしフラッグは大きくなるにしたがって、育てている作物を食べ始める。父は「作物は命、だが子鹿のすることをとめることはできない」と言い、開拓地での飢餓の怖さを知っていた両親は辛い決断をする。

 

絶望のあまり家出していたジョディは帰ってくる。父は「人生は素晴らしいものだが、楽ではない」とジョディを諭す。

ジョディは厳しい開拓地で逞しく生きてゆこうとする。成長した息子の姿を見て父ペニーはこう言う「もう子鹿じゃない」

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開拓者たちのこのような暮らしがあって今のアメリカができた。

シェイクスピアの庭 2018年

すべてのものは塵にかえる

イギリス ケネス・プラナー監督

1613年、「ヘンリー八世」を上演中のロンドンのグローブ座が大火災で焼失した。49歳のシェイクスピアは断筆し故郷ストラッドフォードの家族のもとに帰る。

そこでは妻アンと長女スザンナ、次女ジュディスが暮らしていた。息子のハムネットは疫病のため11歳で亡くなっていた。詩の才能があったハムネットをシェイクスピアは深く愛していたので、彼のために庭を作り始める。

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しかし20年以上も故郷を離れていたためシェイクスピアと妻や娘たちの間には冷ややかな空気が漂っていた。ロウソクと暖炉の灯りだけの部屋で、家族たちの刺々しい会話が始まる。そのセリフと映像はまるで当時を再現したようだった。

 

ジュディスはハムネットが父の期待に応えようといつも怯えていたと話す。そしてハムネットの死の真相を明かすとシェイクスピアは呆然とする。

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17世紀初頭のイングランドは知識も財産も男だけのものであり、息子が学校に行っている間、娘は台所にたつしかなかった。妻アンと次女ジュディスは文字を書くことができなかった。

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パトロンだったサウスサンプトン伯爵から「国王の次に偉大な人物」と称えられたシェイクスピアは分相応の恵まれた人生を送る。しかし後年、シェイクスピアの血筋は絶えてしまい、すべてものは塵にかえった。

 

シェイクスピア晩年の3年間を格調高く描いた物語で「悲劇」ではなく、400年前の家族ドラマだった。