自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

プロジェクト・グーテンベルク 贋札王

すべてがフェイク

2018年、香港、中国 フェリックス・チョン監督

テーマもストーリーもいいのだがもう少し贅肉を絞るようにすれば、もっと面白い作品になっただろう。

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タイの刑務所から物語は始まる。投獄されている偽札犯のレイが精巧な切手を作っている。本物とまったく違わないその見事さに舌を巻くばかりだ。

レイは香港の警察に移送される。そこで尋問にあい、釈放されるために偽札事件の真相を話す。ここから回想シーンが挟まれる。

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2年前の1985年、レイは同じ画家で恋人のユン・マンとカナダのバンクーバーで暮らしていたが、ユンは才能が認められ個展を開き絵が売れる。

だがレイには才能がなく失意の日々を送る。ある日、「画家」と名乗る偽札集団のボスから「心を込めれば偽物も本物になる。最高の偽札は世界でもっとも愛される複製画だ」とレイは誘われる。やがて偽造画家の才能があったレイは偽札づくりに没頭してゆく。

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 紙幣を印刷するには凸版印刷機ではなく凹版印刷機が必要だった。それは世の中にほとんどなかった。そして無酸紙も政府が独占していた。特殊インクは強奪する計画だった。それらの障害を乗り越えて本物以上の米ドルの偽札が出来上がる。

 

しかしレイの供述はどこかおかしい。やがて死んだと思っていた「画家」が現れ自白したレイの命を狙う。

 

私は騙されたが、おそらく誰もが騙されるだろう。ラストシーンの驚き、すべてがフェイクだった。私たちがつかまされたのは偽札だった。

森本あんり「宗教国家アメリカの不思議な論理」

神学的な観点がないとアメリカを理解できない

「神は、従う者には恵みを与え、背く者には罰を与える。自分は成功し、恵まれている。だから神は自分を是認している。自分は正しい」という勝者の論理がアメリカを貫いている。

このアメリカ的な精神や論理を露骨に体現しているのがトランプ。

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平等主義と信仰復興運動が反知性主義の原点。大卒のインテリ牧師だけが幅をきかせるピューリタニズムの知性主義の反動として生まれた。無学で胡散臭い多くの巡回伝道師が広場で説教をする。

18世紀、急激に人口が増えたことと大衆メディアの発達がその原因だった。神の前の平等を唱える巡回伝道師たちが奴隷解放運動を担い、黒人たちの文化と教会を開花させた。

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ちなみに反知性主義とは知性に反発することではなく、「知性がすべてだ」という独善に反発するもの。ここに知識階級と大衆の断絶がある。

 

政教分離は政治権力に対して宗教的熱情を確保するためだ。知性は権力と結びつきやすい。進化論という科学に反発しているのではなく、それを政治権力が一般家庭に押し付けることに反発する。家庭における価値観や教育に権力が踏み込んでくることに反発する。政治権力とは別の権威で自分を支えてくれるもの、それが宗教だ。日本にはないものだ。

世界を覆っているポピュリズムは宗教的熱情に似ている。

 

「神よ、変えるべきものを変える勇気、変えることのできないものを受け入れる静謐さ、その二つを区別する賢明さを、わたしに与えてください」

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映画「狩人の夜」の巡回伝道師、聖書、教会、讃美歌、多くのアメリカ映画をみると深層にキリスト教が息づいているように思える。

CLIMAX クライマックス 2018年

地獄と極楽は紙一重

フランス、ベルギー、ギャスパー・ノエ監督

若いダンサーたちへのインタビューという平凡なシーンから始まる。ダンサーたちは自信満々に将来の夢を語る。

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男女22人のダンサーたちはアメリカ公演のために厳しいリハーサルをおこなっていた。

それが終わり、打ち上げのパーティーが人里離れた広い建物内で行われる。全員がサングリアを飲みながら踊りだす。赤や青の光の点滅、爆音のような音楽と激しい動きのダンスシーンが続く。

 

ところがサングリアのなかにドラッグが混入されていた。

やがてダンサーたちは狂気にとりつかれ、パーティーは狂喜乱舞、阿鼻叫喚、魑魅魍魎の世界に変わる。黒人の男二人の猥談が延々と続き、放尿する女、ナイフで自分を傷つける女、レズ、近親相姦、服に火が付き絶叫する女、妊婦の腹をける男、まるでソドムの市か地獄絵図のようだった。

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96年の実話に基づく物語。ストーリーらしきものはなく、ただただ叫び声が響き渡るだけだった。

 

ダンサーたちはどのような幻覚を見ているのだろう。ダンサーたちの狂った行動を見ているうちに「LSDの幻覚世界の中に入るとこうなるのか」と思う。それは極楽から地獄への道であり、地獄と極楽は紙一重だった。

 

面白いというタイプの作品ではないが、怖いもの見たさで最後まで目が離せなかった。LSDの疑似体験が出来るユニークな映画だった。