自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ブック

岩波書店編集部編 私の「貧乏物語」

蛭子能収 「ピザって食べたことある?」と私が聞くと「いや、ない」と女性。「俺もない」・・お互いの仲が深まっていくような夜になった。 「結局、この女性と私は結婚することになる。まだ私は職業がはっきりせず、配達やチリ紙交換、いろんな仕事で何とか…

下重暁子「極上の孤独」

「人間、誰もが最期は一人。孤独を愉しむことを知っていれば、一人の時間が何ものにも代えがたく、人生がより愉しくなると私は考えている」 「最後が孤独死であったとしても、本人にとっては充実した素晴らしい人生だったかもしれない」 女優の大原麗子さん…

クリスーウェブ佳子「考える女(ひと)」

モデル・コラムニスト、1979年10月生まれ。島根生まれ、大阪育ち。 イギリス人の夫をはじめ、国際色豊かな友人関係を持つ。 ストレートな物言いと広い見識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。二女の母。 還…

ライアル・ワトソン「エレファントム」

ゾウとクジラ 福岡伸一は「動的平衡」のなかでライアル・ワトソンの「エレファントム」をこのように紹介している。 「象は太古の昔からずっとヒトを見守ってきた。象たちは、ヒトの祖先が樹から降り、森林から草原に出てきたときも、そっと場所を譲ってくれ…

オードリー・タン「まだ誰も見たことのない未来の話をしよう」

オードリーが語り、近藤弥生子が執筆 オードリー・タンは台湾のデジタル担当政務委員(閣僚)、1981年台北生まれ。15歳で中学校を中退し、スタートアップ企業を設立。19歳の時、シリコンバレーでソフトウェア会社を起業。 2005年、トランスジェ…

福岡伸一「迷走生活の方法」

「生命の緊急時、ストレスホルモンは免疫システムが使っていたエネルギーや栄養をストレスと戦うための他の緊急システム(心臓、筋肉、呼吸、知覚など)に振り向けるようなスイッチとなる。 つまりストレスホルモンは免疫抑制剤なのである」 「長い歴史でス…

沢木耕太郎「深夜特急」

70年代、26歳の沢木は香港からロンドンまでのユーラシア大陸横断の一人旅に出た。その当時の記録。いつ読んでも引き込まれる私の愛読書。 インドのカルカッタ、サダル・ストリートでは物乞いをする子どもたちがいた。 「弟を小脇に抱えた男の子が眼の前…

半藤一利「歴史と戦争」

昭和16年12月の真珠湾攻撃のラジオ放送を聞いて・・・ 作家の長与善郎「生きているうちにまだこんな嬉しい、こんな痛快な、こんなめでたい日に遭えるとは思わなかった」 徳川夢声「いくら万歳を叫んでも追っつかない。万歳なんて言葉では物足りない」 詩…

池田清彦「もうすぐいなくなります 絶滅の生物学」

ネアンデルタール人の男とホモ・サピエンスの女 最初の人類は、いまから700万年前にアフリカに現れたサヘラントロプスだとされている。約60万年前にネアンデルタール人の系統とホモ・サピエンスの系統に分岐する。 私たちにはネアンデルタール人の遺伝…

中井久夫「戦争と平和 ある観察」初出は2005年

中井は1934年奈良県生まれ、2022年逝去、精神科医、専門は精神病理学 人類がまだ埋葬していないものの代表は戦争である。戦争を知る者が引退するか世を去った時に次の戦争が始まる例が少なくない。戦争の酸鼻な局面をほんとうに知るのは死者だけ。 …

ブレイディみかこ「ヨーロッパ・コーリング」

「在英20年のライターが、いま欧州に吹く風を日本に届けるべく、熱い思いとクールな筆致で綴った政治時評」 社会保障の削減。貧困の拡大。緊縮財政によって未来を奪われる若者や労働者たち。 地べたから見るグローバリズムとは、労働する者を舐めくさった…

國友公司「ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活」

どっこい生きている 西成区の4人に一人が生活保護受給者だが、あいりん地区だけをみれば割合はもっと高く、貧困ビジネスが横行する。元ヤクザやホームレスやシャブ中が徘徊し、社会からドロップアウトした人たちが暮らす町。 新世界国際劇場はオカマの魔窟…

村上春樹「品川猿の告白」

現代の御伽草子 作家が寂寥感あふれる群馬県の温泉宿に宿泊する。彼が温泉につかっていると、ガラス戸をガラガラと開けて、猿が低い声で「失礼します」と言って、風呂場に入ってきた。「背中をお流ししましょうか」作家は「ありがとう」と言った。 名前は「…

藤田久美子インタビュー編「松本隆のことばの力」

松本隆・・・60年代後半、ドラマーとして細野晴臣らとバンド活動を始め(後のはっぴいえんど)、作詞も担当、解散後、職業作詞家の道に。 歌を受け取り、それを歌にして返す歌のコミュニケーション・・万葉集からインスパイアされた現代の相聞歌「木綿のハ…

村上春樹、川上未映子「みみずくは黄昏に飛び立つ」

真実を語るための嘘は嘘でなく物語になる 家に例えると、一階はみんながいる団らんの場所、二階はプライベートなスペース、地下一階にはなんか暗い部屋がある。日本の私小説が扱っているのはこのあたり。 この家にはさらに地下二階があってここが村上の小説…

稲垣えみ子「寂しい生活」

51歳独身女性の節電生活 女性の書くエッセイはどうしていつも面白いのだろう。 事の発端は原発事故後の節電だった。最初は掃除機から始まった。ほうきと雑巾で間に合った。やがて冷蔵庫をなくすという革命が起こった。 ついには電気というものをほとんどや…

江國香織の短編「デューク」

デュークが伝えたかったこと 映画「僕のワンダフル・ライフ」はレトリバーの子犬が、飼い主のイーサンに会いたくて生まれ変わりを何度も繰り返すという物語。 私と「デューク」との奇跡 クリスマス、21歳の女が泣きながら歩いている。歩きながら女は涙がと…

ハルノ宵子「猫だましい」

表紙の猫が自画像のように見える ブロ友さんの紹介で読んでみたが、「トンデモ本」だった(もちろんいい意味で) 漫画家、エッセイストのハルノ宵子の父は思想家、詩人の吉本隆明、妹は作家の吉本ばなな。 2017年、内科医はステージⅣの大腸がんだとつぶ…

「一人で生きる」が当たり前になる社会

荒川和久、中野信子対談集 第1章 「ソロ社会」化する日本 孤独死しているのは、ほぼ元既婚者。結婚していても孤独死するという現実。一人でいたい人が4割、他者といたい人は6割。2040年には独身者が47パーセントになる。 第2章 孤独とは悪いことな…

女性の見た戦後

後片付け ポーランドの女性詩人、ヴィスワヴァ・シンボルスカ 「終わりと始まり」 戦争が終わるたびに 誰かが後片付けをしなければならない 物事がひとりでに 片づいてくれるわけではないのだから 誰かが瓦礫を道端に 押しやらなければならない 死体をいっぱ…

藻谷浩介「しなやかな日本列島のつくりかた」

「現智の人たち」7人との対話集 第一章「商店街」は起業家精神を取り戻せるか 起業家精神もなく不動産を固守する店主。町を私物化する集団が町を内部から腐らせてゆく。20世紀に発明された商店街を残す意義。 第二章「限界集落」と効率化の罠 なぜ限界集落…

星野道夫「旅をする木」

星野は1952年千葉県市川生まれ、86年アニマ賞、90年木村伊兵衛賞受賞、96年カムチャッカにて逝去。変わりゆくアラスカを写真と文章で記録していった。 魅力的な33篇のエッセイ集だ。いや何よりも星野の生き方そのものがじつに魅力的なのだ。便利…

中村うさぎ「私という病」

「どうして私は、女であることを、おおらかに正々堂々と楽しめないのか」これが中村の長年の疑問だった。 中村が買い物依存症、ホスト依存症の次に体験したのが「デリヘル嬢」だった。47歳なのに32歳と偽って面接を受け、採用された。源氏名は「叶恭子」…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「犯罪」

ドイツで屈指の刑事事件弁護士といわれる著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちを鮮やかに描いた11編の傑作短編集。 著者は映画「コリーニ事件」の原作者でもある。祖父はナチ党全国青少年最高指導者パルドゥール・フォン・シーラッハ。 …

池上彰、佐藤優「大世界史」

本の内容を簡単にスケッチした 歴史は現代と関連づけて、初めて生きた知になる。歴史を重ねてみると「いま」が立体的にみえる。 中東はユダヤ教、キリスト教、イスラム教という三大宗教の聖地があり文明発祥の地であり、産油国。常に「世界史大転換の震源地…

沢木耕太郎「チェーン・スモーキング」

短編小説のようなエッセイ集。その中の一編「赤や緑や青や黄や」 ちなみにタイトルは「公衆電話の色」のこと。 「私鉄駅のプラットホームで・・売店脇の緑色の公衆電話から少女の声が聞こえてきた。どうやらそれは、入学試験の合否の発表を見にいき、自分の…

村上春樹「ドライブ・マイ・カー」

映画「ドライブ・マイ・カー」は高評価だが、とりあえず原作を読んでみた。 性格俳優の家福は「接触事故を起こし、免許証も停止になった・・それから視力にも問題があった」 仕方なく専属の運転手が必要になり、北海道からやってきた「渡利みさき」を雇った…

竹中労「鞍馬天狗のおじさんは」

鞍馬天狗は嵐寛寿郎だった。通称「アラカン」 この本はある人に勧められてずいぶん前に読んだ。おもしろくて夢中になった。 内容はほとんど忘れているが、アラカンが「おなごは可哀そうなものじゃ」と何度も何度も語っていた事はよく覚えている。 だからなの…

香山リカ 堕ちられない「私」

高田純次のいい加減さと調子のよさには笑ってしまうが、脱力系の柔軟さもある。 精神科医の香山リカ『堕ちられない「私」』はどこか高田純次と通じるものがあるような気がした。 香山はこのように書いている。 うつ病などの心の病にかかったり、ドラッグ、暴…

桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」

ライトノベルの衝撃 鳥取県境港市の中学校、13歳の山田なぎさのクラスに美少女の転校生がやってきた。海野藻屑(もくず)で自分のことを「ぼく」と言い、海からやってきた人魚だという。 父親はかつての有名な歌手、海野雅愛だった。デビュー曲「人魚の骨…