夫婦という名の共犯関係
2017年 スウェーデン、アメリカ、イギリス、ビョルン・ルンゲ監督
1992年コネチカット州、深夜、作家ジョゼフのもとに電話がかかってくる。ノーベル文学賞授与の知らせだった。ジョゼフは妻のジョーンと大喜びする。二人は新進作家の息子を伴って授賞式に出席するためにストックホルムを訪れる。
1958年、ジョゼフとジョーンは教師と学生として知り合い結婚する。ジョーンはジョゼフを愛していたが、彼には作家としての才能はなく文才豊かなジョーンがゴーストライターとして執筆し、それを夫ジョゼフの名前で出版していた。
名前だけの著者とゴーストライターという言わば共犯関係だった。ノーベル賞授与式でのスピーチで妻ジョーンの「内助の功」を称えるが、そのスピーチに何故かジョーンはキレてしまう。
長い間、ジョーンは夫ジョゼフへの「愛」と自分の内なる「作家」の間で揺れていたのだろうか。共犯関係を続けてきた夫と自分を許せなかったのではないか。自分の存在を否定されたように感じたのかもしれない。
この映画の結末はあっけなくて、しかもあまりにもジョーン役のグレン・クローズの存在感が強烈すぎてそれだけが印象に残った。
映画「メアリーの総て」は女性には作家の才能がないと思われていた19世紀初頭の物語。メアリー・シェリーが書き上げた「フランケンシュタイン」の作者名に彼女の名前はなかった。
しかしメアリー・シェリーは「フランケンシュタイン」は自分の作品だとつよく主張した。夫の詩人シェリーもそれを認めた。「フランケンシュタイン」第二版から彼女の名前が明記され、彼女の名前が後世まで残った。良くも悪くもそれが「作家」というものだろう。