想像力がもたらす恐怖
オランダ、フランス、ジョルジュ・シュルイツァー監督
仲のいい夫婦レックスとサスキアは車でオランダからフランスへ旅行していた。ドライブインで妻のサスキアが失踪する。3年経ったが行方不明のままだった。レックスはビラを貼り、テレビにも出演して情報を集めていた。
やがて犯人から何通もの手紙が届く。犯人は理想的な家族をもつ中年男で大学教師のレイモンだった。
ある日、レックスの前に犯人のレイモンが現れ、真相が知りたければ私と一緒に車に乗れと要求する。レックスは犯人を捕まえるよりもサスキアがどうなったのか、その真相を知りたくて、要求を拒むことができなかった。
私たちはレックスが破滅してゆく姿をただじっと見つめているだけだった。つい映画の中のレックスに声をかけてしまう。「ついて行ってはダメだ」
暗いトンネルの中、車がガス欠になり立ち往生してしまい、サスキアは異常なほど慌てて、トンネルの外に出てゆく、この冒頭のシーンから得体の知れない恐怖が漂っている。
レックスの閉所恐怖症、レイモンの妻の叫び声、ギブスをはめた腕、金の卵・・など至るところに伏線が張り巡らされている。
スタンリー・キューブリック監督が「これまで観たすべての映画の中で最も恐ろしい映画」と評した。しかも3度も観たという。私ならとうてい3度は無理だろう。
残虐なシーンは一切ないのにこの怖さはどこから来るのだろう。二人がどのような恐怖を味わったのかを想像するだけでトラウマになりそうだった。つまりこれは想像力がもたらす恐怖の映画ではないだろうか。