美しい映像詩の世界
スペイン、ビクトル・エリセ監督、99分
1940年ごろのスペインの村、公民館に映画の巡回上映のトラックがやってくる。上映されるのは「フランケンシュタイン」だった。
幼いアナと姉のイサベルは息をつめてスクリーンを見つめていた。
映画の中でフランケンシュタインは少女を殺し、フランケンシュタインも殺される。アナは」「なぜ殺したの」と姉のイサベルに訊く。少女も怪物も死んでいなくて、フランケンシュタインは精霊で村はずれの一軒家に隠れている、昼間は見えないけれど呼びかければ現れるとイサベルは説明する。
アナは一人で一軒家を訪ねてみるが誰もいなかった。
ある日、列車から飛び降りた脱走兵が一軒家に逃げ込んでくる。アナはその男に林檎を差し出す。そしてオルゴール付きの懐中時計がはいっていた父親のコートを渡す、
母親の秘密の手紙、父親のミツバチ観察、毒キノコの話、イサベルが黒猫の首を絞める、指についた血を唇につける、学校の人体標本の授業、どこまでも続く線路・・ストーリーとは無関係のような小さなエピソードがなぜか心に残る。
空想と現実の区別がつかない幼いアナの心象がスペインの荒涼とした風景の中で描かれる。
アナは「精霊とお友達になればいつでも話すことができる」と信じていた。目を閉じて「わたしはアナよ」と精霊に話しかける。見事な作品だった。