静かな余韻を残す佳作
妻を亡くし、孤独に暮らしていた大学教授のウォルターはコネチカットに住んでいたが、久しぶりにニューヨークのアパートに帰る。
そのアパートに見知らぬ男女が住んでいた。シリア出身のタレクとセネガルからきた黒人女性ゼイナブだった。二人は不法滞在者だったので警察に通報されることを怖れていた。
泊まるところのない二人を見かねてウォルターはしばらくの間、居候させることにする。
タレクは「ジャンベ」というアフリカ発祥の太鼓の奏者だった。ウォルターはタレクからジャンベを習い始め、二人は心を通わせるようになる。
地下鉄でのちょっとした誤解からタレクは警官に逮捕される。そして移民勾留センターに送られる。ウォルターは何度も面会に行くが、9.11テロ以降、不法移民の取り締まりが厳しくなっていた。やがてタレクの母親モーナがアパートを訪ねてくる。
ある日突然、タレクはシリアに強制送還される。
ジャンベという楽器が効果的に使われていた。無気力な生活を送っていたウォルターもその音を聴くと無意識のうちに身体がリズムをとりだす。そして自分でも太鼓を叩くようになる。
ウォルターは「忙しいふり、仕事をしているふりをしていた」と自分の味気ない生活をモーナに打ち明ける。4人とも善人なのに不法移民を排除するという国策に逆らえないという「怒り」がひしひしと伝わってくる作品だった。