自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

それでも私は生きていく 2022年

フランスの介護施設事情

フランス、イギリス、ドイツ、ミア・ハンセン=ラブ監督

5年前に夫を亡くしたサンドラは通訳の仕事をしながら8歳の娘リンと暮らすシングルマザーだった。父親ゲオルグは哲学の教師だったが、今はベンソン病のため視力と記憶を失いつつあった。

サンドラは頻繁に父親の元を訪ね、介護していたが、父親がだんだんと衰えてゆく姿を見て、無力感に苛まれていた。

父親は一人ではトイレにも行けなくて、アパートを引き払い、病院、介護施設へと移ってゆく。サンドラは父親の蔵書を処分することになり「本人よりも本を見るほうがパパを感じる。選んだ本から人間性が見える」と言う。

 

そんな時、サンドラは亡くなった夫の旧友クレマンと再会して、二人はたちまち恋に落ちる。しかしクレマンには妻子がいた。「愛人でいるのは耐えられない」とサンドラは苦しむ。

記憶が失われ、娘のことが分からなくなってゆく父親と、クレマンとの新しい恋、その狭間で苦しみながら生きてゆくサンドラ。悲しみと喜び、それが人生だった。

 

かつては尊敬され、慕われていた父親ゲオルグの惨めな姿を見ると、サンドラは耐えきれずに自然と涙を流す。サンドラ役のレア・セドゥはボーイッシュでありながら、エロティックであり、悲しみに耐える姿が胸を打つ。