自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

未知との遭遇(新型コロナウイルス)

いつの間にか季節が移っていた

f:id:hnhisa24:20200501091250j:plain
太古の昔から人類は未知のウイルスに何度も遭遇してきた。「絶滅するのは人類か、ウイルスか」・・多くの人命は失われたが、生き残ったのは人類だった。

 

友人たちから近況を知らせるメールやウイルス関連の動画が送られてきた。彼らはマスメディアやインターネットの情報にとても詳しい。おそらく、単に私が情報に疎いだけなのだろう。

長い間、音信のなかった女友達からは電話があった。その陽気で元気な声を聞くとなぜか安心した。

 

サッカーやバドミントンをする子どもたちの笑い声が聞こえる。大人たちは死の恐怖にとらわれている。ウイルスよりも仕事を失うことが不安だという人がいる。豹変して隠されていた性格があらわれた人もいる。

もちろん世界の危機を訴え続けている人もいる。「ステイホーム」「お家がいちばん」とさかんに言われだした。

どこか監視社会を思わせるような息苦しさを感じるようになった。それでも季節は移り変わる。

f:id:hnhisa24:20200501091332j:plain

「自由」と「正義」、そして「生命」と「経済」、どちらを選ぶのか、そのジレンマに直面している。私たちはパニックに陥ることなく、最終的には絶妙にバランスのとれた判断をする・・今はただそれを信じるのみだ。

エル・スール 1983年

父はどのような一生を送ったのか

スペイン、ビクトル・エリセ監督

 暗い画面の右隅に少し光がさしている。部屋の窓からほのかな朝陽が差し込んでくる。外では犬が吠えている。部屋はだんだん明るくなり、母のあわただしい声が聞こえ、ベッドで眠っている少女の姿がうかんでくる。

薄明りの中で少女は父が残したダウジングの振り子を見つけると「もう父は戻ってこない」と思う。

1957年秋、少女エストレリャが15歳のとき父アグスティンは自殺した。

f:id:hnhisa24:20200428091012j:plain

医師である父はスペイン内乱で祖父と対立し、恋人で女優のイレーネ・リオスとも別れ、豊かな南の土地を去り、雪の降る北の田舎町で暮らし始める。しかし父は別れた恋人イレーネを忘れられなかった。母との諍いが起こる。

初聖体拝受式の日、「エン・エル・ムンド」の曲にのって父と幼い娘エストレリャが踊る。二人にとっては至福の時だった。

f:id:hnhisa24:20200428091049j:plain

エストレリャと父がホテルのカフェで食事をした日、隣のフロアーから「エン・エル・ムンド」の曲が聴こえてくる。結婚披露宴だった。新婦と新郎が軽やかに踊っている。

父は懐かしさのあまり「覚えているかい、初聖体拝受式の日に、一緒に踊ったじゃないか」しかし娘は「覚えているわ」と素っ気なく答え、そのまま去ってゆく。父は一人残される。

それが父との最後の会話だった。

f:id:hnhisa24:20200428091836j:plain

私たちは若き日の父や母、そして二人の青春を永遠に見ることが出来ない。父の過去に何があったのか・・エストレリャは父の故郷、南(エル・スール)に旅立つ。

 すべてのカットが美しい映像詩であり、名曲「エン・エル・ムンド」が心に沁みる。いつまでも静かに呼吸している名作。

奇蹟のシンフォニー 2007年

世界は音楽で満ちている

アメリカ、カーステン・シェリダン監督

 養護施設で育った11歳のエヴァンは音楽の才能にあふれた少年だった。風の音やチャイムや鳥のさえずりなどあらゆる音を聴き分ける鋭い感性を持った神童だった。

まだ会ったことのない父と母を求めて、施設を抜け出し、ニューヨークにたどり着く。音楽に導かれるままエヴァンは父と母を捜す。一方、児童福祉局のジェフリーズがエヴァンを探し始める。

f:id:hnhisa24:20200425083401j:plain

チェロ奏者である母のライラは死産だと知らされてエヴァンの存在を知らなかった。ロック・ミュージシャンである父のルイスはライラとの仲を無理に裂かれ、自分に息子があることも知らず失意の日々を送っていた。

 

音楽がそばにある、音楽はどこから来るのか、心の耳を澄ませば音楽は聴こえてくる。エヴァンにはローラスケート、地下鉄、犬の鳴き声、工作機械の音、鳩の羽ばたき、自転車、足音、都会の喧騒が音楽として聴こえる。

 

彼はオーガスト・ラッシュ(8月の興奮)としてデビューする。ジュリアード音楽院でその才能を認められ、教授になぜ作曲するのと問われて「楽譜を書くのはぼくに音楽を与えてくれた人への返事」と答える。

f:id:hnhisa24:20200425083427j:plain

セントラルパークでNYフィルとの野外音楽会、彼が作曲した「オーガストのラプソディ」を指揮する。その音楽に導かれて奇跡が起こる。父と母があらわれたのだ。

 

夢のようなストーリーだが、身体を動かしながらリズムをとりたくなる映画だ。世界は音楽で満ちている。ただ耳を澄ませば聴こえてくる。

 

ウイルスで騒然とした今、不安を煽り立てるような「音」で溢れているが、じっと耳をすませば「本物の音」が微かに聴こえてくる。