自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

コリーニ事件 2019年

欲しいのは正義だけ

ドイツ マルコ・クロツイパイントナー監督

原作は著名な弁護士フェルディナント・フォン・シーラッハの同名小説、短編集「犯罪」「罪悪」は衝撃的だった。

2001年5月、ドイツで30年以上暮らしてきた67歳のイタリア人コリーニが、ベルリンのホテルで84歳の大物実業家マイヤーを殺害する。

新人弁護士でトルコ人のライネンは被害者の名前も確認せずに、コリーニの国選弁護人になる。実はマイヤーはライネンの恩人で父親のような存在だった。黙秘をとおすコリーニは殺害の動機を話さなかった。

ライネンに初めて喋った一言が「父親はいるのか」だった。この言葉がラストシーンにつながっている。

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殺害に使われていた「ワルサーP38」が動機を解き明かす糸口になる。この銃はかつてナチスが使っていたものだった。ライネンはコリーニの故郷、イタリアのモンテカティーニを訪ねる。

 

ナチスの将校だったマイヤーの戦争犯罪が明らかになるが、1968年にナチス戦争犯罪を時効にする「ドレーアー法」が制定されていた。この法律は重要だと思われないまま、簡単に成立していた。

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法では認められなかったが、彼が求めたものはマイヤー殺害が正義だと証明されることだった。それは牢獄から見る一筋の灯りだった。その反面、コリーニは「死者は復讐を望まない」と言う。

 

法の正義を問いかけた法廷劇であり、人間の深淵をのぞかせてくれたドイツ映画らしい重厚な緊張感の漂う一級品だった。