幻灯機が映し出す世界
1991年、台湾 エドワード・ヤン監督
台湾映画には韓国や中国や日本映画にはないものがある。それは「懐かしさ」だ。
台湾の風景や暮らしぶりを見ているとなぜかそこに住んでいたような気持ちになる。少年だった頃を思い出し、永遠にノスタルジーの世界に閉じ込められたような気分になる。そして台湾の歴史の一コマを見ているような気もする。
1961年、14歳の少年が同じ年のガールフレンドを殺害するという事件を抒情詩的に描いた作品。小四(シャオスー)と小明(シャオミン)の淡いラブストーリーをメインにしながら、そこに60年代の台湾の社会状況が映し出される。
不良グループの対立と抗争。蒋介石の国民党とともに中国本土から逃れてきた外省人たちと台湾人である本省人たちの確執。中国本土への復帰を夢見るシャオスーの両親。60年代のアメリカの音楽に夢中になる少年少女たち。
多くの男たちに愛されるシャオミンにシャオスーは言う「僕だけが君を救うことができる」と。
でもシャオミンは「私を助けるって・・あなたも他の人と同じ、私を変えたいのね。私は世界と同じ、変わることはないわ」と答える。その時、シャオスーに殺意が芽生える。
幻灯機で映し出された世界は夢か幻か、それとも現実なのか。
4時間(236分)という長尺の映画だが、おそらくそれだけの時間がないとあの時代の台湾を覆っていた空気を描き切れなかったのだろう。