自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

忘れじの面影 1948年

一方通行のような恋

アメリカ マックス・オフュルス監督

 1900年頃のウィーン、ステファンは決闘を明日に控えていたが、夜のうちに逃げ出すつもりだった。口のきけない召使ジョンが見知らぬ女からの手紙を持ってくる。

「あなたがこの手紙を読んでいる時、私は死んでいるでしょう」という書き出しで始まる。

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少女リザは隣に引っ越してきた有名なピアニストのステファンを見た瞬間、恋に落ちた。しかしステファンはプレイボーイでリザを気にもかけていなかった。落胆したリザは両親とリンツに引っ越しをしてしまう。

18歳になったリザはウィーンに戻り、ステファンと再会する。しかしステファンはリザをまったく覚えていなかった。二人は恋に落ち、夢のような日々を過ごすが、ステファンは演奏旅行でミラノに行くことになる。2週間したら戻ってくると約束するが、「あなたは戻らなかった」

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やがてリザはステファンの子どもを産む。息子が9歳になったときリザは裕福な男と結婚して何不自由のない生活を送っていた。ところが運命のいたずらなのか、すっかり落ちぶれたステファンと再会する。リザは何もかも捨ててステファンの元に行くが、それでも彼はリザをまったく覚えていなかった。

 

手紙を読み終わったステファンは召使のジョンに「覚えているかい」と訊く、ジョンはうなずいて、「リザ・ベルンドル」と書く。自分を恥じたステファンはある決心をする。

 

ラストシーンはフェリーニ監督の「道」を思い出させて、後味は決して悪くなかった。

レッド・ムーン 1968年 

サスペンス西部劇

アメリカ ロバート・マリガン監督

 1880年代の西部、10年間も先住民に囚われていた白人女性サラは凶暴な戦士サルバヘとの間に生まれた息子を連れて逃げてきた。

騎兵隊のベテラン案内人のサムは彼が育てた混血青年ニックに後を託し、引退してニューメキシコの牧場で余生を送る予定だった。ところが成り行きで、サムはサラと息子を駅まで送り届ける羽目になる。

やがてサムはサラと息子を駅に置き去りにする事ができず、二人を牧場に連れてきて一緒に暮らし始める。

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しかし凶暴なサルバヘは息子を奪い返すために、次から次へと殺戮を続けながら迫ってきた。彼の通った後には多くの死体が散乱していた。

最後まで姿を見せないサルバヘのことをサラは「あの男は音もなく忍び寄る」と恐怖で語る。敵はたった一人だが、しかしそれは見えない悪魔だった。とうてい勝ち目はなかった。もうこれはサスペンス映画と言ったほうがいい。

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「レッド・ムーン」はすこし異色の西部劇だが、それでも最近の西部劇に比べると60年代のウェスタンの香りがして、正統派といってもいいのではないか。何と言っても3人が家族のように暮らし始めるのがいい。

 

開拓時代の男たちは馬や幌馬車で砂塵の中、荒野をゆく。やがて新天地にとどまり、家を建て、牛や作物を育て、干ばつや貧困を乗り越えてゆく。男が一日の仕事に疲れて帰ってくると家には灯りがともり、煙突からは煙がのぼっている。そして男は妻や子どもたちと温かい食事をとる。そうやって開拓地に家族が誕生した。

西部劇は「家族の物語」でもある。

ロング・ロンググッドバイ

息を引き取る

映画「ロング・ロングバケーション」は夫がアルツハイマー認知症、妻は末期がんという70代の夫婦がキャンピングカーで旅に出る物語。夫婦漫才のような笑いがたっぷりの映画だった。妻は夫を一人残して死ぬことが出来ずに、車に排ガスを引き込んで二人は死の瞬間を迎える。

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一度だけ死の瞬間に立ち会ったことがある。それは私の父の死ぬ瞬間だった。病状が急変して家族は医師を呼びに行き、病室には私一人だけが残った。

 

急に息づかいが荒くなり、大きく息を吸い、そして大きく息を吐いた。それがしばらく続いた、そして大きく息を吸った、ところが今度は息が吐かれることはなかった。この世の空気を大きく吸い込んだままあの世に旅立った。これが「息を引き取る」ということかと思った。それは人生でもっとも厳かな瞬間でもあった。

 

心臓が止まった後も聴覚は生きていると聞いた事があったので、息を引き取った後、私は父に語りかけた「***********」と、おそらく父には聞こえただろう。父はその言葉を持って旅立った。ほんの数分間の出来事で、深夜の病室には私と父しかいなかった。

 これが私と父とのロング・ロンググッドバイだった。