自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

私はゾンビと歩いた! 1943年

心優しき怪奇映画

アメリカ、ジャック・ターナー監督 68分

 「私はゾンビと歩いたの」という女性の独白で映画は始まる。

カナダから西インド諸島の砂糖農園主ポールの妻ジェシカの看病のために、看護婦のベッツィはセバスチャン島にやってきた。ポールの弟ウェズリーは兄の妻ジェシカを愛していた。

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奴隷の末裔である島の住民はブードゥーを信じていた。住民たちはジェシカをゾンビと呼んでいた。しかし住民たちの言うゾンビとは私たちの知っている死人が生き返って、人間を襲うというものではなく、病人や生きる気力のない人のことだった。

病人のジェシカはただ息をしているだけの「生きる屍」だった。彼女は夜になるとまるで夢遊病者のようにフラフラと歩き回る。

それは熱病による精神障害なのか、それともブードゥーの呪いによるものなのか。

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ベッツィはもしかしたらブードゥーの治療でジェシカが治るかもしれないと思い、深夜、ジャングルを抜けて彼女をブードゥーの小屋に連れてゆく。

ところがそこにいたのはブードゥーの祈祷師ではなく、ポールとウェズリーの母親で、何故か「ジェシカはもう治らない」と言う。

 

夜になるとジャングルから不気味な太鼓の音が聴こえてくる。ブードゥーの儀式が始まったのだ。

ジェシカは呪文に誘われるようにフラフラと屋敷を抜け出してジャングルに向かう。ジェシカを愛するウェズリーはその後を追い、そして悲痛な決断をする。

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ブードゥーの土俗的な民間信仰を思わせるモノクロ映像、ゾンビとゾンビを愛した男が暗い海に消えてゆく、抒情的な怪奇映画だった。

アフター・ウェディング 2006年

得るものと失うもの

デンマーク スサンネ・ビア監督

インドのスラム街で孤児たちの教育、住居、食料などの救援活動をしているデンマーク人のヤコブ、しかし孤児施設は資金不足で閉鎖寸前だった。そうなれば孤児たちは路上生活に戻ってしまう。

そんな時、デンマークの大富豪ヨルゲンから莫大な寄付の申し出があり、ヤコブデンマークに出かける。ビデオを見せてインドの実情を説明するが、ヨルゲンはあまり興味を示さない。

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娘アナの結婚式に出席するように強引に誘われ、ヤコブは断ることが出来なかった。

結婚式でヤコブは20年前に別れた恋人ヘレネと顔を合わせる。ヘレネはヨルゲンの妻になっていた。じつは新婦アナはヤコブの娘だった。ヤコブは自分に娘がいたことを全く知らなかったし、アナも実父は死んだと聞かされていた。

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ヨルゲンは莫大な救済基金の管理をヤコブとアナにまかせるという。しかしヤコブデンマークに住むことが条件だった。ヨルゲンの目的は何だろうか。

 

ヤコブを父のように慕っている8歳の少年プラモドが彼の帰りを待っていた。一時、インドに戻ったヤコブがプラモドに「一緒にデンマークで暮らさないか」と訊ねると、彼はそれを断ってインドのスラムで生きていくことを選んだ。

 

情熱はあるが資金調達の才能がなくて、15年間、大きな成果を残せなかったヤコブと、ゼロから出発しながらもビジネスの才能があり大富豪になったヨルゲン、二人の人生が交差する。

どこかに私を必要とする人がいる・・これはそんな映画。

はなれ瞽女おりん 1977年

 

ざらしこゝろに風のしむ身かな(芭蕉

日本 篠田正浩監督、原作水上勉 撮影宮川一夫

 「盲目の女が一人で生きるには按摩か女郎か、瞽女になるしかなかった」

 

天涯孤独で盲目の6歳の少女おりんを富山の薬売りが、盲目の女芸人たちが暮らす越後高田の瞽女屋敷に連れてゆく。三味線と唄を習い旅芸人として生きてゆく宿命だった。12歳の時、おりんは初潮を迎える。その後は神様の妻になり男と関係を持つことが許されない。

しかし美しく成長したおりんは男たちの誘惑に身を任せてしまう。掟を破ったおりんは「はなれ瞽女」として一人で旅に出る。やがて温もりを求めて男から男へと渡り歩いてゆく。

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阿弥陀堂で大男の平太郎と知り合い、おりんは自分の身の上を話す。平太郎はおりんを大八車に乗せて二人で旅をつづけるが、仏様のようだと言っておりんを抱かなかった。二人にとって初めての幸せな旅だった。

 

シベリア出兵や米騒動や飢饉で国民は苦しんでいた時代(1918年~1922年)。平太郎は脱走兵で憲兵隊が若狭の小浜まで追ってきた。

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伝統の祭り、田舎町の旅籠、田舎芝居、座敷芸、旅芸人、地蔵堂観音堂六地蔵、貧しい村、石畳の道、北陸の四季折々の風景、海辺を歩く二人、深い山中、香具師、万歳師、善光寺薬師寺、一面の雪景色・・・ここには日本の原風景がある。大正初期の日本を巡る抒情的な「ロードムービー」ともいえるだろう。

だけど家も家族もない盲目の女の一人旅、どれほど不安だったろう。

 

岩下志麻原田芳雄奈良岡朋子樹木希林西田敏行小林薫・・・だれもが驚くほど若い。それだけでも充分、一見の価値がある。