自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

祇園の姉妹(きょうだい)1936年

花街に生きる女たち

日本 溝口健二監督

オリジナルは90分だがフィルムが失われて、現在みることができるのは69分版でこの20分の違いは結構大きいような気がする。

1953年に撮られた溝口監督「祇園囃子」に比べると時代のせいなのか少し重い雰囲気の物語だった。祇園で暮らす人々や見たことのない戦前の町並みになぜかノスタルジーを感じる。路地を抜けると思わぬ発見のある町、それが千年の歴史をもつ京都。

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義理人情に厚い祇園の芸妓梅吉、その妹でドライな芸妓おもちゃ、かつて梅吉の旦那だった古沢が破産して二人の家に転がり込んでくる。梅吉は面倒をみようとするが、おもちゃは古沢を追い出そうとする。

 

おもちゃは「男はんという男はみんなわてらの仇や、にっくい敵や」と姉に反発し、金になりそうな男を丸め込んで手玉に取る。しかし最後には嘘がばれて男の仕返しにあい、怪我をして入院する。

一方、姉の梅吉もまたあれほど面倒を見た古沢がいそいそと妻のもとに帰り、裏切られたような気持になる。

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戦前の八坂から清水あたりの路地と町屋、行きかう着物姿の男と女、貧しさの中にも義理人情があり、どこかのんびりとしていたが、芸妓たちは浮き草のような暮らしだった。

 

「男に負けてたまるか、芸妓みたいな商売が世の中になかったらいいのに、義理がなんや、実を尽くして世間から立派と言われても世間はわてらに何をしてくれた、わてらはどうしたらいいんや」

 

ここで突然、フィルムが切れたように映画は終わる。「わてらはどうしたらいいんや」というおもちゃの叫びだけがいつまでも耳に残る。おもちゃ役の山田五十鈴の存在感が強烈だった。

群像短篇名作選2000~2014

感動作、怪異譚、不思議小説、パンク小説、ハートウォーミング、ユーモア小説とバラエティに富んでしかも粒ぞろいの短篇ばかり。

 

黒井千次「丸の内」、村田喜代子「鯉浄土」、小川洋子「ひよこトラック」、竹西寛子五十鈴川の鴨」、町田康「ホワイトハッピー・ご覧にスポン」、本谷有紀子「アウトサイド」、川上未映子「お花畑自身」、長野まゆみ「45°」、筒井康隆「大盗庶幾」など。

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「鯉浄土」のなかの継子いじめの昔話「手無し娘」。継母が美しい先妻の娘を憎んで下男に山で殺させる。しかし下男は娘の両腕を切り落として命だけは助ける。手無し娘の腕の付け根から血の束が噴き出た。娘は痛みをこらえて呪文を唱える。

「手はなくとも 血はめぐるな 手はなくとも 血はめぐるな」

娘の血は止まり、新しい腕が生えて、彼女は幸せな結婚をする。

 

「お花畑自身」夫が亡くなって家を手放した女は、丹精込めて作った庭のお花畑への愛着を捨てられず、その中に身を横たえ埋まってゆく。

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「大盗庶幾」はある少年の成長記だが、いつのまにか「怪人二十面相」誕生秘話になってゆく。「ジョーカー」誕生秘話に比べるとあまりにも能天気すぎて思わず笑ってしまった。

 

五十鈴川の鴨」私と友人は伊勢神宮五十鈴川で鴨の親子を見た。友人は「いいなあ」と言い、私も「いいなあ」と合わせた。友人はなぜか結婚をせずに家族ももたなかった。

ある日、女が訪ねてきて友人の死を告げ、死ぬ前に友人は五十鈴川の鴨の親子をみることができたお礼を伝えてほしいと言った。私は初めて友人が被爆者だったことを知った。

隣の影 2017年

そして誰もいなくなった

アイスランドデンマークポーランド、ドイツ、

ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン監督

アトリは妻に隠れて深夜ポルノビデオを見ていた。それは自分と昔の恋人のセックスビデオだった。それを妻に見つかり追い出され、アイスランドの閑静な住宅街に住む両親のもとに転がり込む。

母親は失踪した長男の自殺を認めることができず、精神にすこし異常をきたしていた。

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その上、アトリの両親は隣家の夫婦と庭の木をめぐって対立していた。隣人は年の離れた中年夫婦で子供が欲しくて人工授精の治療を受けていた。どちらも悩みを抱え、大人の知恵がなく争いはだんだんエスカレートしてゆく。

 

一方、アトリも妻との関係を元に戻そうと努力するが、かえって泥沼化してゆく。

やがて猫は消え、犬は動かなくなる。そして男たちは誰もいなくなった。

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当然のことながら人口36万人、世界一安全で平和な国アイスランドにも隣人トラブルはある。この映画の当事者たちにとって隣人トラブルは喉に刺さった小骨のように煩わしいものだが、他人からみれば深刻なようでちょっと滑稽な気もする。

 

89分という小品で凄いという映画ではないが、悲劇なのにブラックユーモアが隠し味になってなぜか苦笑してしまった。特にショッキングな「ワンシーン」はいつまでも記憶に残るだろう。

 

隣人トラブルをもう少し複雑にすれば隣国トラブルになる・・そんな気がしてくる映画でもあった。