自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

早すぎるとき、遅すぎるとき

 

映画との出会いと同じように人との出会いも早すぎるとき、遅すぎるときがあると思う。

ずいぶん前のことだが、当時、私は東京でフリーランスの仕事をしていた。仕事仲間に2歳ほど年上の女性がいた。彼女はボーイッシュな秋田美人だった。

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私は池上線の洗足池駅に住んでいて、彼女は三つほど先の駅だった。時々、一緒に帰ることがあった。彼女は疲れて私の肩に頭をのせてよく居眠りをしていた。

 

ある日、ギャラを届けるために彼女の住んでいる町の駅前で落ち合った。二人で喫茶店に入り、彼女はビールを私はコーヒーを飲んでしばらく雑談をした。帰り際「私のマンションに寄っていかない?」と声をかけられたが、私はとても疲れていたので断った。

まさかそれが彼女と会う最後の日になるとは思わなかった。

後に、彼女は離婚寸前でとても悩んでいたということを知った。

 

長い間、そのことをすっかり忘れていたが私にある出来事が起こり、突然、思い出した。

彼女ともう少し遅く出会っていれば違った行動をとったような気がする。出会いが早すぎたと思った。なにしろその時、私はまだ24歳だった。

 

いつ出会うかはとても大切なことで早すぎても遅すぎても、悔いは残るものだ。

 

これが今年の最終の記事です。コメントを残してくれた方、訪問してくれた方、ありがとうございました。よいお年を。

未体験の一年だったが、いつの時代も怯えるのではなく、戦う姿勢の人たちがいる。

羊たちの沈黙 1991年

格調あるサイコスリラー

アメリカ ジョナサン・デミ監督

この映画はリアルタイムで、しかも映画館で鑑賞した。当時、このようなサイコスリラーはほとんどなかったので映画が終わった後も呆然としていた。今回、再々鑑賞したがクラリスが独房のレクター博士と面会するシーンから震えるような衝撃がはしった。

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優秀な女性FBI訓練生のクラリスアメリカ各地で起こっている連続猟奇殺人事件の捜査に加わる。犯人は女性の皮膚を剥ぐことからバッファロー・ビルと呼ばれていた。

 

クラリスは上司の命令で元精神科医の囚人ハンニバル・レクター博士の助言を求めるために、州立病院に向かう。レクター博士は威厳のある知的な紳士だったが、人食いハンニバルと呼ばれるサイコパスだった。

面会の時、病院の所長に「油断するとレクター博士は頭の中に入り込んでくる」と警告される。

 

殺害された女性の死体の喉の奥にドロクメンガタスズメの繭が押し込まれていた。繭はやがて蛾になり大きく羽を広げる。これがバッファロー・ビルの変身願望を象徴するものだった。

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女性の皮膚を剥ぐバッファロー・ビルは残虐な異常者にすぎなかった。ところが人間の肝臓に舌鼓をうつレクター博士はダークヒーローのようだった。「善悪の彼岸」にレクター博士の世界があり、それは実に魅惑的な世界かもしれない。

 

じっと耳を澄ませば羊たちの悲鳴が聞こえてくる・・そんな気がする映画だった。

ガーンジー島の読書会の秘密 2018年

一冊の本が人と人を繋ぐ

イギリス、フランス、マイク・ニューウェル監督

1946年、第二次大戦直後のロンドン、作家のジュリエットはナチスドイツ占領下のイギリス海峡ガーンジー島で読書会が人々の心の支えになっていたことを知る。ジュリエットは「タイムズ」に読書会についての記事を書くために島を訪ねる。

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占領下の中、人との繋がりや語らいや友達が欲しかったので読書会を始めたという。ところが創設者のエリザベスはいなかった。

 しかし彼らは「タイムズ」に読書会の記事を載せることを拒む。その理由を話そうとはしなかった。謎を追っていくとナチス占領下の悲劇が浮かんでくる。

エリザベスは幼い娘キットを残したままナチスに連行され、その後は消息不明だった。

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「たった一冊の本が私をこの島に呼び寄せた」その本とはジュリエットが古書店に売った「チャールズ・ラム随筆集」だった。その中にジュリエットの住所が書かれていた。そこから読書会の一人ドーシーとの文通が始まったのだ。

 

ディケンズ、オースティン、ブロンテ姉妹、メアリー・シェリー、イエーツなど英国文学への愛着、そしてガーンジー島の海岸線や風景の美しさ、その上、ミステリー、ラブロマンス、戦争の悲劇と英国文学の王道をゆくストーリー。

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ロンドンに戻ったジュリエットは何日もタイプライターを打ち続け、読書会とエリザベスのことを書きあげる。完成した原稿を彼らに進呈して出版しないと約束する。

 

そしてジュリエットは「エリザベスの話を私にしてくれてありがとう」と読書会のメンバーに感謝の言葉をおくる。「エリザベスの話」はジュリエットの運命を大きく変えてゆく。