自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ルビー・スパークス 2012年

小説の中から登場したルビー

アメリカ、ジョナサン・デイトン、バレリー・ファレス監督

高校を中退して19歳で天才作家と呼ばれるようになったカルヴィン、しかしその後の10年間、スランプで一冊も本を書き上げることができなかった。セラピーをうけていた精神医から夢に出てきた女性のことを書くように勧められる。

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カルヴィンがその女性ルビー・スパークスの物語を書き始めると不思議なことに彼女が現実に現れる。最初、カルヴィンは自分が狂っている、だれにも彼女は見えないと思っていたが、周りの人にも見えることが分かり安心する。彼女は実在していたのだ。

そんな小説の中のルビーとカルヴィンが一緒に暮らし始める。人付き合いの苦手なカルヴィンはルビーを深く愛するようになる。

 

なんとカルヴィンがルビーのことをタイプライターで打つとその通りになる。彼女がカルヴィンを愛していると書けばそうなり、フランス語を話せると書くと突然ルビーはフランス語で話しだす。陽気になると書けば急にお喋りになるのだった。

そこにルビーの個性や自由はなく、単なるカルヴィンの操り人形だった。やがてルビーは自分が小説の中の女だと知って姿を消す。

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ルビー役のゾーイ・カザンがとてもチャーミングでステキだった。カルヴィンの母親役のアネット・ベニング、その恋人役のアントニオ・バンデラスもキラリと輝いていた。

 

コメディタッチのラブストーリーから終盤にはどこかホラーっぽい展開になってゆく。でもファンタジックでキュートないい映画だった。

レ・ミゼラブル 2019年

人生そのものの格差

フランス ラジ・リ監督

150年前の1862年6月のパリの民衆蜂起、バリケードのなかでは「自由、平等、博愛」をあらわす三色旗が翻っていた。

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2018年、サッカーのワールドカップで優勝したフランス、熱狂し凱旋門前で国旗(三色旗)を振りながら「フランス万歳」を叫ぶ国民たち。その中に三色旗を身にまとった黒人少年の姿があった。三色旗のもとに国民が一つになっていた。

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ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台となったパリ郊外の貧困層や移民の多い犯罪多発地区モンフェルメイユの警察署に赴任してきたステファン、彼は二人の先輩警官クリス、グワダと共に町のパトロールに出かける。黒人少年イッサがロマのサーカス団から子ライオンを盗んだことで黒人ギャング、ムスリム同胞団、そしてロマたちが対立する。

 

イッサを追っていた3人の警官のひとりグワダが思わずイッサをゴム弾で撃ってしまう。その様子をドローンが撮影していた。映像がネットに流れることを怖れて、3人の警官は映像が記録されたSDカードを探し始める。

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やがて警察や大人に対する少年たちの怒りが爆発し暴動がおこる。

そこには「自由、平等、博愛」の三色旗のもとに一つになった国民の姿はなく、ただ親から子供へと綿々と続く貧困と怒りがあった。

 

グローバリゼーションの時代、貧富の格差だけではなく、今まで見えていなかった人生そのものの格差がはっきりと見えてきた。人々は分断され、盤石だと思われていた資本主義と民主主義が揺らぎ始めている。

コロナのなかの映画館

エンターテインメントにエールを

「映画館で映画を観るのは軽い運動をするのと同じぐらい健康にいい」という海外ニュースがあった。家で観るのはダメだという。暗闇の中で観客たちは繋がっている。

個人的な事情がいろいろ重なって最近は映画館に行くことが少なくなった(コロナの影響ではない)

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東京に住んでいるときは渋谷の「全線座」や銀座の「並木座」によく通ったものだ。並木座では「けんかえれじい」のラストシーンで観客から一斉に拍手が起こった。

 

阪神間にもたくさんの映画館があったが、今はほとんど閉館になり、シネマコンプレックスになった映画館もある。大阪の日本橋にはマンションの一室のような小さな「国名小劇」、北浜には名画を上映していた「三越劇場」があった。

 

2本立ての堂島の「大毎地下劇場」や常設館ではないが「毎日文化ホール」も懐かしい。梅田には「コマゴールド」「シルバー」という低料金の映画館もあった。

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歓楽街の十三には「第七藝術劇場」、松島遊郭のある九条には「シネ・ヌーヴォ」があり、コロナの中、大阪の文化の灯りを絶やさないように頑張っている。

 

コロナの影響で映画人やミュージシャンといったエンターテインメントに携わっている人たちが苦しんでいる。

「生命があれば他に何もいらない」と言う人もいるが、私はそうは思わない。エンターテインメントは生きる気力を与えてくれる。

 

映画館やライヴに出かけてゆく人たちにエールをおくりたい気持ちだ。