自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

君は行く先を知らない 2021年

どこに向かっているのか

イラン、パナー・パナヒ監督、93分

イランの荒涼とした大地を走る車。左脚にギブスを着けた父親、助手席でカーステレオから流れる歌謡曲を口ずさむ母親、無言で運転している20歳ぐらいの長男、一人無邪気に、はしゃいでいる幼い次男の4人が乗っている。

 

両親と長男は自分たちが何処に向かっているのか分かっているが、次男は知らなかった。次男には長男が結婚すると説明していた。

途中で、重い感染症の犬や自転車レースの選手を車に乗せたりしている。彼らは尾行されているような気がして何故かビクビクしている。やがて彼らは荒野にある小さな村に到着する。長男は「旅人」として迎えられて、やっと彼の行先が分かる。

 

トルコ国境近いこの村から国外逃亡しようとしていたのだ。そのために車や家を抵当に資金を調達してきた。

母親は長男に「行かないで、寂しくなるわ」と言い、二度と会えなくなることをとても悲しんでいた。この映画ではイランの歌謡曲が効果的に使われている「♪愛する人が去っていった わたしの頬は青ざめる♪」

 

ドラマ性は少なく、情報の断片や暗喩もあり、オブラートに包んだような映画だった。

 

イランは文化の検閲や言論統制に厳しい国であり、その事情を知らないとこの映画はよく分からないかもしれない。でも山岳地帯や草原や砂漠のロングショットの美しさに惹かれる作品だった。