シュールでもリアリズムでもない世界
路面電車の運転士ラウリとその妻でレストランの給仕長イロナ、同じ時期に二人は失業してしまう。世の中は不況でいくら探しても仕事は見つからなかった。テレビや家具も売ってしまう。
仕方なく昔の仲間たちとレストランを開こうと考えるが、肝心の資金はなく銀行も融資してくれなかった。
映画はジャズの弾き語りのシーンから始まる。そしてバンドのライブ演奏がありどこか懐かしい曲、浮世離れした登場人物たち、ぎこちなく短い会話、とぼけた顔の愛犬、独特な色彩、子供を亡くした夫婦のつつましい暮らし、辛くて悲しいのになぜか可笑しい・・そこにはいつものカウリスマキ的世界があった。
違うのは珍しくハッピーエンドだということだ。
淡々と物語がすすむにつれて私たちはカウリスマキの世界に徐々に引き込まれてゆく。一度この奇妙な味を覚えてしまうと虜になってしまい、もう引き返すことはできない。どのようなシーンでもユーモアを感じさせるのがカウリスマキの真骨頂だ。
どことなくフィンランド版「歌謡曲だよ、人生は」のような気もする。
私にとって初めてのカウリスマキ作品が「浮き雲」だった。まずその独特の世界観と演出に驚いたものだ。初体験の「刷り込み」のせいなのか彼の作品の中でも一番好きな映画であり、もちろん傑作だと思っている。