自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

グリーンブック 2018年

一つのクリスマス・ストーリー

アメリカ ピーター・ファレリー監督

1962年、ニューヨーク、ナイトクラブの用心棒トニーはクラブが改装のために、しばらく閉鎖されることになり、黒人ピアニストのドクター・シャーリーの南部ツアーの運転手として雇われる。

黒人の宿泊施設ガイド「グリーンブック」を頼りに黒人差別が色濃く残っている南部へと二人は出発する。60年代の南部では誰もが息をするように差別をしていた。

 

最初は反発しあう二人だが、やがて徐々に友情が芽生えてくる。実話に基づいたコメディタッチのロードムービー

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シャーリーは「才能だけじゃ充分じゃない、勇気が人の心を変える」と危険な南部へのツアーを決意した。その一方、「黒人でも白人でもなく、しかも男でもないゲイの自分はいったい何なんだ」とトニーにぶちまける。

 

アラバマ州の黒人専用のバー、地元のミュージシャンたちとのセッションでシャーリーは大きな拍手をもらう。演奏の愉しさを知り、黒人たちの中に溶け込んでゆく。そこに黒人としてのアイデンティティがあった。

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ツアーが終わり自宅に戻ったシャーリー、クリスマスイブなのに豪華な部屋にたった一人だった。その頃、トニーは妻や子供、多くの仲間たちに迎えられ賑やかにクリスマスを祝っていた。

 

この映画にあったのは差別への強いメッセージではなく静かなメッセージだった。シンプルでスピーディーなストーリー展開の優しい映画だった。そして最後は一つのクリスマス・ストーリーで終わる。

ゴッドファーザー 1972年

男の映画

アメリカ フランシス・フォード・コッポラ監督

この映画を最初に観たのはずいぶん前のことだったが、それほど印象に残る作品ではなかった。それから十何年か後に再鑑賞したとき、映画に魅入られながらラストシーンには身体が震えたことを覚えている。

そして最近、再々鑑賞してこれは単なるギャング映画ではなく、優れたヒューマンドラマだと思った。観るたびに評価が高くなっていく。

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第二次世界大戦後のアメリカ、イタリアン・マフィアの抗争を描いた作品であり、父ヴィトーのあとを引き継いでドン・コルレオーネの座につく三男マイケルの物語でもある。

 

イタリア、コルレオーネ村のシーンの叙情性、恋する二人が歩く田舎道、その後ろを親族たちがついてゆく。熾烈な殺し合いの合間に流れる美しいテーマ曲。裏社会のビジネスに生き、家族を最も大切にしながらも家族を失ってゆく男たち。

妹の息子の名付け親になるマイケル、洗礼式、カトリック教会で宣誓をしながら、その裏で敵対する男たちを殺してゆく。血に汚された名付け親だった。

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重厚な映像と波乱にとんだストーリー。「仲介役が裏切り者だ」という世界。なによりもラストシーンの圧倒的な見事さ。

光のシーンと闇のシーンがお互いを際立たせ、私たちを幻想的な世界に引き込んでゆく。

 

この映画を貫いているものは「男の美学」だと思う。そしてそれは男の精神性に深くかかわっているものだ。「男にとって大切なものは家族と潔さとプライドだ」という事を男は自然に学ぶものだ。

これは悲劇だ、だからこそ「男の映画」なのだ。

マイ・エンジェル 2018年

ひとりにしないで

フランス バネッサ・フィロ監督

フランス、美しい海岸のコート・ダジュール、シングル・マザーのマルレーヌは8歳の娘エリーと暮らしていた。再婚相手との結婚式で新郎と違う男と抱き合っているところを見つかり破談になる。

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マルレーヌは男にだらしなく酒とタバコをはなせない女だった。ある夜、マルレーヌはナイトクラブで知り合った男と出奔して、しばらく家に帰らなかった。エリーは寂しさを紛らわせるように酒を飲み、化粧をする。

 

ある夜、移動遊園地を彷徨っていたエリーはトレイラーハウスに住む孤独な青年フリオと出会い、父親のように慕ってゆく。

しかし「好きだから一緒にいたい。ひとりにしないで」というエリーの願いは叶えられなかった。

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娘は母を愛し、母親は娘をエンジェル・フェイスと呼んで深く愛していたが、本当の愛し方を知らなかった。それは簡単なことで一人にさせないことだった。

 

エリーは学校劇に人魚姫の役で出演することになり、何度もセリフを練習する「私は海に住む、頭の上にはたくさんの星、上の世界を見てみたい、きれいな心がほしい、天と地の喜びも」

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美しい海辺のコート・ダジュールも母マルレーヌも青年フリオもすべてが背景になり、ただ8才のエリーだけが浮かび上がってくる物語だった。

 

評価は分かれているが、私はいい映画だと思った。それは8歳の少女の心のうちが痛いほど伝わってきたからだ。