自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

デカローグ 1989年

ポーランドクシシュトフ・キェシロフスキ監督

「じゃむまるのシネマデイズ」で「デカローグ」がアップリンク京都で上映されていると聞いて、以前にヤフーブログに書いた記事を急遽、再録しました。多くの人に鑑賞してほしい作品です。

 

 1989年~1990年に製作されたポーランドの60分程度のテレビドラマ・シリーズ。あまりにも完成度が高くヴェネチア国際映画祭などで絶賛された。

おそらくキェシロフスキ監督の最高傑作だろう。これほど凄いテレビシリーズだとは思わなかった。孤独と愛を描き、人の魂を揺さぶる意外性をもったストーリーが実に素晴らしい。

DVDは現在、入手困難で、果たして10本の作品をすべて観る事ができるかどうか分からない。

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第1話「ある運命に関する物語」53分。第2話「ある選択に関する物語」57分 どちらも未鑑賞

 第3話「あるクリスマス・イヴに関する物語」56分

自分を捨てた男は幸せなイヴの夜を迎えているのに自分は孤独だ。孤独に耐えきれなくなった女は、消えた夫を捜してほしいと自分を捨てた男のもとを訪ねる。

第4話「ある父と娘に関する物語」55分

亡くなった母が残した一通の手紙にはなにが書かれているのだろうか。父は本当の父ではなく、娘は本当の娘ではないのだろうか。タブーの近親愛を描いた。

 

第5話「ある殺人に関する物語」57分

タクシー運転手を殺した孤独な青年と新米弁護士。殺人と処刑シーンの残虐さ。人は簡単には死なない。

第6話「ある愛に関する物語」58分

望遠鏡で向かいの女性の部屋を覗いている青年。女に愛を打ち明けるが拒絶され、青年は自殺をはかる。

この第5話と第6話は映画用に再編集して「ある殺人に関する短いフィルム」「ある愛に関する短いフィルム」のタイトルで上映された。

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第7話「ある告白に関する物語」55分

16歳で子どもを産んだ娘。母親はその子供を自分の子供として届ける。やがて6年が経つ。

第8話「ある過去に関する物語」55分

大学で女性教授の講義を聴くアメリカ女性は40年前、ゲシュタポに追われるユダヤ人の少女だった。

第9話「ある孤独に関する物語」58分。第10話「ある希望に関する物語」57分 どちらも未鑑賞。

 

「身を切るような孤独を知っている者だけが、人生の美しさを真に享受することができる」

駅/STATION 1981年

昭和歌謡の世界

日本、降籏康男監督

メキシコ・オリンピックの射撃選手である警察官三上と3人の女たちの関わりを北海道の「駅」を舞台に描く。

 

1968年1月、妻のたった一度の過ちを許すことができなかった三上は妻直子と離婚する。直子は幼い息子をつれて銭函駅のホームから列車に乗って去ってゆく。彼女は泣き笑いの顔で三上に敬礼をした。目には光るものがあった。

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1976年6月、増毛駅前の風待食堂で働くすず子、彼女の兄は暴行殺人犯として警察に追われていた。すず子は知能が遅れているふりをして警察の追求をのらりくらりとかわす。「芝居で俺たちをだましていた」と刑事。

すず子は暴走族の男の子供を身ごもるが堕胎する。何年か後、彼女は傷心のまま増毛を去ってゆく。

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1979年12月、増毛の居酒屋の女将桐子、彼女はふらりと入ってきた三上と深い仲になる。孤独だった二人はぬくもりを求めあう。初詣の参道で桐子は昔の男と出会う。男は殺人犯だった。

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桐子と三上が大晦日の夜、紅白歌合戦八代亜紀「舟唄」を聴くシーンはまさしく昭和歌謡の世界だった。

「♪お酒はぬるめの燗がいい 肴はあぶったイカでいい 女は無口なひとがいい 灯りはぼんやりと灯りゃいい・・♪」

北海道の荒れた冬の海、波の合間を海鳥が飛びかっている。

 

世の中に男と女がいる限り終わらない物語があり、人は生きている限り誰かを想い続けるものかもしれない。「一度別れると、二度と会えない人のどれほど多いことか」と人は言う。

恐怖の精神病院 1946年

怪奇映画からホラーへ

アメリカ マーク・ロブソン監督 79分

1761年のロンドン、セント・メリー精神病院、その病院長シムズは患者を残虐に扱い、笑いものにしていた。患者を見世物にして、全身に金箔を塗って窒息死させる。

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モーティマ卿の話し相手だった若い女性ネルはそんなシムズの非道さを嫌っていた。ネルがモーティマ卿と決別すると、シムズは策略で彼女を精神病院に入れてしまう。

 

病院内は暗く、不潔で獣じみた叫び声がする。あれほど患者たちに同情していたネルはシムズと同じように患者は汚くて野蛮だと思う。でもネルは自分の間違いに気づき、患者たちと打ち解けてゆく。シムズは患者以上に精神を病んでいた。

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ネルが精神病院に無理やりに収容されたと知ったクエーカー教徒の青年が彼女を助けようとする。

やがて虐待されていた患者たちが反乱を起こし、シムズは生きたまま石壁の中に閉じ込まれてしまう。

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1773年、精神病院は改善され、患者は適切な治療をうけるようになった。

 

「恐怖の精神病院」と以前にレビューしたことのあるロバート・ワイズ監督「キャット・ピープルの呪い」、ジャック・ターナー監督「私はゾンビと歩いた」は異色短篇作家(ロアルド・ダールシオドア・スタージョン、シャーリィ・ジャクスン、ジョン・コリア、デュ・モーリアブラッドベリ・・)の奇妙な味の短篇を思わせる映画だった。

1950年前後にはこのような低予算で80分程度の怪奇的、幻想的な映画がたくさん撮られていたのかもしれない。