自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ウィスキーが、お好きでしょ

ラジオのFM放送からこんなセリフが聴こえてきた。

「気分が落ち込んでいた時、誰か知らない人のリクエスト曲に元気づけられた」確かにそんな曲がある。

その後、「ウィスキーが、お好きでしょ」が流れてきた。この曲に元気づけられたというわけではないが、あの時代を思い出して気持ちが少し柔らくなった。

そういえばショーン・コネリーが出演していたウィスキーのCMに「時は流れない。それは積み重なる」という名言があった。

今年の夏も南佳孝の「モンロー・ウォーク」がよくリクエストされていた。この曲に元気づけられた人はきっといると思う。

 

ジムで久しぶりに会った女性の「会えてよかったわ」という言葉に元気づけられたことがある。些細なことで落ち込み、ちょっとしたことで元気づけられる。

パーフェクト・ケア 2020年

「奇妙な可笑しさ」の社会派サスペンス

アメリカ、J・ブレイクソン監督

法定後見人のマーラは認知症などで判断能力が低下した富裕層の高齢者たちの資産を管理し、彼らをケアしていた。

実は医師や介護施設と結託して高齢者たちから資産を搾り取っていた。合法的だが悪徳の後見人ビジネスだった。パートナーはレズ・フレンドの女性フランだった。

家族もいない孤独な資産家の老女ジェニファーに目をつけ、裁判所の決定書を見せて無理やり彼女を介護施設に収容してしまう。そして携帯電話を取り上げ、施設の中に閉じ込めてしまう。

 

ところが本物のジェニファーは1949年に死んでいた。では一体、彼女は誰なのか。「ジェニファーあなたは何者」とマーラは訊く。ジェニファーはマフィアのボスと繋がりがあった。

 

マーラは「フェアプレイじゃ何も手に入らない」「世の中は奪うものと、奪われるものがいる」と、アメリカンドリームを夢見ていた。

ジェニファーを救い出そうとするマフィアのボスが善人で、施設に閉じ込めておこうとする後見人のマーラが悪人というブラックユーモア。しかもボスにはそれほどの邪悪さがなく、むしろマーラのほうが偏執的な「お金の亡者」だった。

この逆転の構図が魅力のコメディを感じさせる作品だった。

 

ちなみにブレイクソン監督には「アリス・クリードの失踪」というとても面白い作品がある。

リトル・ダンサー 2000年

少年が旅立つとき

イギリス、スティーブン・ダルドリー監督

1984年、イングランド北東部のダラム炭鉱、炭鉱労働者のストライキで揺れる町。祖母と炭鉱労働者の父と兄と暮らす11歳の少年ビリーはふとしたことからバレエに興味を持ち、少女たちに混ざってダンスのレッスンを受ける。

才能を認められ、ダンス教室の女教師からロンドンのロイヤルバレエ学校のオーディションを受けるように勧められる。父と兄は反対する。しかし楽しそうにダンスをするビリーの姿を見た父は、せめてビリーの将来への道だけは閉ざしたくないと思い、スト破りをしてまでお金を工面しようとする。

 

バレエ学校の面接官からの「踊っている時の気持ちは」という質問に「自分が消える、身体が変化して、火がつく感じ、鳥のように飛んでいる、電気のように」とビリーは答える。

女教師に「この町を出て自分の人生を見つけなさい」と励まされ、小さな女の子には「さようならビリー」と言われ、大切な友人とも別れてゆく。去ってゆくものよりも去られてゆくもののほうが辛いものだ。

それでもビリーは希望にあふれて旅立ってゆく。

 

ブラスバンドを描いたマーク・ハーマン監督の「ブラス!」と同じように、サッチャー政権下で苦しんだ炭鉱労働者家族の再生を描いた爽快な作品だった。