自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ステップフォード・ワイフ、1975年

いつしか恐怖が沁み込んでくる

アメリカ、ブライアン・フォーブス監督

原作はアイラ・レヴィンのSFホラー「ステップフォードの妻たち

セミプロの写真家ジョアンナは弁護士の夫ウォルターと娘たちと一緒にニューヨークから閑静な田舎町ステップフォードに引っ越してきた。隣人も優しく理想的な町だと思っていたが、どこか違和感を覚える。

 

少し前に引っ越してきたボビーと友達になるが、彼女もまたこの町の妻たちに違和感を覚え、二人でこの町の秘密を探り出そうとする。ステップフォードに住む妻たちは仕事もせずにただただ夫に従順で家事だけにいそしむ女性ばかりだった。

やがて「男性クラブ」にその秘密があると知るが。驚いたことに突然、ボビーも従順な妻になってしまう。引っ越して4カ月経つと妻たちは全く違った人間になってゆくのだった。いやそれはもはや人間とは違う生き物だった。

 

ジョアンナは町から逃げ出そうとするが、それを夫や男性クラブの男たちに知られてしまう。

前半はウーマンリブの物語のように見えるが、徐々に何かが違うと感じ、終盤になると不気味な恐怖に襲われる。男たちの心の奥にある「貞淑な妻」という欲望が実体化したのだ。

 

グロテスクなホラーとは違う恐怖がそこにはあった。カルト的な魅力に惹きつけられるが、もしかしたらこれは傑作になりえた作品だったかもしれない。

ピーター・ティンクレイジ

異形の役者

先日、鑑賞した2005年のアイルランド映画名犬ラッシー」にピーター・ティンクレイジが出演していたので驚いた。旅芸人の役でとても魅力的な男を演じていた。

初めて彼を注目したのは「孤独なふりした世界で」だった。

人類が死に絶えた地球で一人生き残った男は死体を弔い、空き家を整理していた。そこにもう一人の生存者の少女が現れる。この孤独な男を演じていたのがピーター・ティンクレイジで、少女役はエル・ファニングだった。

 

名犬ラッシー」「孤独なふりした世界で」「パーフェクト・ケア」「スリー・ビルボード」の4本しか私は観ていないと思うが、どれも強烈な存在感があり、深いバリトンの声も素敵だった。

実力派の俳優で見世物的な脇役ではなく、最近は主役クラスでの出演が多くなっている。

 

彼はニュージャージー州で1969年に生まれ、ベニントン大学を卒業、軟骨無形成症による小人症で身長は135cm。

「僕の身長はわずか135cmだ。しかし、僕の人生はそれ以上に質が高い」

「多様なふりした世界で」で必要なのは人としての尊厳かもしれない。

 

今年はこれが最後の記事です。コメントを残してくれ方、訪問してくれた方、ありがとうございました。良いお年を・・

その壁を砕け 1959年

芦川いづみの可憐さ

日本、中平康監督、脚本新藤兼人、撮影姫田真佐久、音楽伊福部昭

自動車修理工の渡辺三郎は念願の車を買った。新潟で看護婦として働いている恋人のとし江と結婚するために、東京から車を走らせた。

深夜、レインコートの若い男を乗せるが、男は橋のたもとで降りた。その後すぐに三郎は駅前で警官に逮捕される。郵便局長が鉈で殺され、その妻が大怪我をしていた。

面通しで三郎はその妻から「犯人はこいつだ」と言われ、警察に連行される。三郎は無実を訴えるが強引に犯人として起訴される。

 

恋人のとし江は敏腕の鮫島弁護士に弁護を依頼する。裁判長は警察の捜査に疑念をもち実地検証が行われる。そこで意外な真相が明らかになる。

 

今の時代からみればずいぶん緩いサスペンスだが、100分のなかに警察の捜査、冤罪、法廷劇などがコンパクトにまとめられていた。そしてストーリーは思わぬ方向にすすみ、一人の田舎警察官が真相を追う展開になってゆく。

砂埃の舞う未舗装の道やほとんど通行人のいないのんびりとした町の風景が時代を思わせた。最近の日本映画のようなヒリヒリしたところがなく、ゆったりとした時間が流れていた。

サスペンスでありながら、なんだか懐かしい文芸調のドラマのようだった。