少女にまつわる五つの物語
五つの物語とは「オーブランの少女」「仮面」「大雨とトマト」「片想い」「氷の皇国」
舞台となる国も時代もちがう物語だがどこか可憐で妖しい雰囲気が漂い、しかもミステリアスでトリッキー、最後まで惹きつけられる短編集だった。
「オーブランの少女」の紹介はこう書かれている。
「色鮮やかな花々の咲く、比類なく美しい庭園オーブラン。ある日、異様な風体の老婆に庭の女管理人が惨殺され、その妹も一か月後に自ら命を絶つという痛ましい事件が起こる。・・かつて重度の病や障害を持つ少女がオーブランの庭に集められこと。彼女たちが外界から隔絶されていたこと。謎めいた規則に縛られていたこと。そしてある日を境に、何者かによって次々と殺されていったこと」
桜庭一樹の名作「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を思い出させるような少女の深い悲しみの物語だった。
自然描写がじつに巧みだった。たとえば「氷の皇国」はこんな文章で始まる。
「若々しい香りを含んだ風が吹き、北の大陸にもようやく春がやってきた。冬の間に雪も少しずつ解けはじめ、顔を覗かせた柔らかな土から草花が芽ぐみ、少しずつ大地を覆っていった。木々は雪の冠を落とし、かもめは淡い水色の空を悠々と飛んでいく」
長い間、日本の小説をあまり読んでこなかった。いつの間にかどこか大正モダニズムを感じさせる新しい才能が芽生えていた。