イランの魔物
2018年、イギリス、ヨルダン、カタール、イラク、ババク・アンバリ監督
1988年、イラン・イラク戦争下の首都テヘラン、医師である夫は戦地へ派遣され、アパートに残された妻シデーと幼い娘ドルサ。戦争が激化し、不発弾がアパートに落下する。アパートの住民たちは疎開のために街から去ってゆく。
伝説の悪霊ジンがやってきたと娘のドルサはいうが、母のシデーは空想だと言ってまったく取り合わなかった。やがてドルサの人形キミアが消えてしまう。二人は悪霊ジンにとりつかれてゆく。
シデーは大学の医学部への復学を希望したが、学生時代に極左運動に参加していた為に拒否された。亡くなった母親はシデーが医学部へ進学したことを誇りにしていた。それを思うと彼女はいたたまれなかった。
シデーは戦争による社会不安や思い通りにならない将来や自分自身の不甲斐なさなど不満がつのっていた。苛立ちの日々がつづき、夫と娘に当たり散らしていた。
「恐怖と不安のあるところに風が吹く」その風に乗って悪霊ジンはやってきた。
こんなスタイルのホラーは初めてだった。そもそもホラーと言っていいものかどうか。この怖さはゾンビや殺人鬼、エイリアンなど外部の怪物がもたらす恐怖とは違うものだった。それは自分自身の内部から生まれてくる魔物の恐怖だった。
やがて異様な姿の魔物が現れる。
すこし戸惑うかもしれないが、ある意味、社会的、心理的な物語でいい映画だと思った。