一級品のサスペンス劇
2006年、ドイツ、フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督
1984年、東ベルリン、国家保安省(シュタージ)のヴィースラーが大学で学生たちに、尋問と自白についての講義をしている。自由のない監視国家の底冷えのするような恐怖。
シュタージは10万人の職員と20万人の密告者で国民を監視していた。
ヴィースラー大尉は上司のアントン部長から劇作家ドライマン監視の命令をうける。ドライマンとその仲間たちは反体制的であるとの疑惑をかけられていた。ヴィースラーの執拗な盗聴がはじまる。
ヴィ―スラーは国家に忠誠を誓う冷徹な男だったが、ドライマンの生活を盗聴しているうちに愛と音楽に惹かれ、感情が揺れ動いてゆく。ヴィ―スラーは 薄暗く寂れたバーでひとり酒を飲み、冷え冷えとした部屋で娼婦を抱き、家族もなく、愛する人も、彼を愛する人もいない孤独な男だった。
ドライマンは自分が盗聴され監視されている事にまったく気づいていなかった。仲間たちとの秘密の会話はヴィ―スラーに筒抜けだった。
ベルリンの壁が崩壊した1989年、ドライマンは盗聴され監視されていたことを初めて知る。それなのになぜ逮捕されなかったのか。彼は思いもよらなかった真相に驚愕する。
ヴィ―スラーの行動がシュタージの隙をついて国家権力に風穴を開けた。わずかな風穴から権力は崩壊してゆくものだ。
すべてを失ったヴィ―スラーが得たものは一冊の本だった。彼はその本を手に取りふっと笑う。初めて見せた彼のその微笑は魅力的だった。