自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ラヴソング 1996年

♪グッバイ・マイ・ラブ

1996年、香港、ピーター・チャン監督

 1986年、中国大陸から若い男シウクワンと女レイキウが、成功をもとめて香港にやってきた。二人はレイキウの勤めるマクドナルドで初めて知り合う。気が強くお金儲けに抜け目のないレイキウと、香港に慣れなくて純情素朴なシウクワンとは友情で結ばれるが、やがてそれが愛情に変わってゆく。

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北京語しか話せないシウクワンは広東語と英語を覚え料理人としての仕事も順調だった。

当時、テレサ・テンは中国大陸では誰もが知っている人気歌手だった。だからレイキウとシウクワンは大好きな歌手テレザ・テンのカセットを露店で売るが、まったく売れなかった。それは中国大陸から来たと知られたくなくて誰も買わなかったのだ。

 やがてレイキウは株で大損をし、借金を返すためにマッサージ嬢になる。そこでヤクザの親分に気に入られ、いつしかレイキウは親分の情婦になる。一方、シウクワンは大陸に残してきた婚約者を香港に呼びよせ結婚する。

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「♪・・グッバイ・マイ・ラブ 二人の恋が グッバイ・マイ・ラブ 真実ならば いつかは逢える これが本当のさよならじゃないの♪・・」

 

 哀切なテレサ・テンの歌にのせて物語はすすんでゆく。1995年5月8日、テレサ・テンが死去する。二人はそれをニューヨークで知る。

 1986年から1995年、10年にわたるシウクワンとレイキウのラヴソング。

聖なる鹿殺し 2017年

古代の悲劇が現代ではホラーになる

2017年、イギリス、アイルランドヨルゴス・ランティモス監督

 不穏な空気がこの映画のすべてを包み込んでいた。

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心臓外科医スティーブンは眼科医の妻アナ、娘キム、息子ボブと郊外の豪邸に住んでいた。幸せそうに見えるのだが、どことなくぎこちない家族だった。

患者だった父親が事故死したので気にかけていると言って、スティーブンは16歳の少年マーティンを家族に紹介する。ところが事故死ではなく手術ミスで死んだのだった。

マーティンは礼儀正しくスティーブンやその家族に接するが、彼の目的は復讐で執拗にスティーブンにつきまとう。やがて息子ボブと娘キムは歩くことが出来なくなる。いくら検査してもその原因はわからなかった。マーティンは家族の誰か一人を殺せ、そうでなければ家族全員が死ぬとスティーブンに警告する。

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古代ギリシア悲劇をモチーフにして現代に置き換えたという。そのせいなのか汚れのない処女をささげることで神の怒りを鎮めるという血の儀式を思わせる映画だった。

父親の過ちを家族の一人が償うという不条理からうける衝撃はとても強いものだった。まるで家族の誰かが死ぬのは至極当然のことのように描かれる。しかも両親はそれに逆らうことなく「子どもを殺す」ことを選択する。このサクリファイスの物語に違和感はあるがそれでも人間の根源的な「業」にたじろいでしまう。

 

この映画にはいろいろな暗喩が隠されているのだろうが、よく分からなかった。ただランティモス監督の異様とも思える作家性には驚くばかりだ。

ロスト・イン・パリ 

映画のような絵本、もしくは絵本のような映画

2016年、フランス、ベルギー、ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン監督

 雪深いカナダの小さな村の図書館司書をしているフィオナにパリで暮らすマーサおばさんから手紙が届く。「助けて」と書かれていた。88歳ですこし痴ほう症気味のマーサおばさんは老人ホームに入れられそうになっていたのだ。

内気なフィオナはパリに行く決心をする。パリに着くとアパートにマーサおばさんはいなかった。パスポートやお金、荷物などをなくし、その上、変なホームレスの男に付きまとわれる。

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ジャック・タチの映画が好きな人はきっとこの映画はお気に入りになるだろう。そしてタチを知らない人はリラックスするためにご覧になってはどうだろう(リラックスできるかどうか分からないけど)言ってみれば好みの分かれる映画だと思う。

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都会的な洒落たユーモア、ファンタジーのようなストーリー、奇妙な登場人物たち、鮮やかな色彩、そして軽妙なパントマイム、つまりそれにつきる映画。

エッフェル塔の見えるパリの風景はとても美しい。映画はそのエッフェル塔セーヌ川、「パリの自由の女神」を背景にして物語が展開してゆく。最後にはエッフェル塔の鉄塔を舞台にして、そこで危険がいっぱい?のパントマイム。パリという不思議の国のコメディ。

 オマケに洒落たジャック・タチ監督の「ぼくの伯父さんの休暇」のポスター。

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