自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

メッセージ 2016年

もし「時の流れ」がなかったら

アメリカ、ドゥニ・ビルヌーヴ監督

突如、アメリカ、モンタナ州に降り立った巨大な卵型の宇宙船。同じような宇宙船が世界の12か所に姿を現した。

 

世界中の人々は怖れ、騒然となる。地球上に非常事態宣言がだされる、エイリアン(ヘプタボット)はなにを求めているのか。そして目的は何なのか。それを探るために言語学の第一人者であるルイーズが派遣される。

言語こそが文明の基盤であり、思考は言語によって左右される。だからルイーズは言語を理解することでエイリアンとコンタクトをとろうとする。

その一方、若くして亡くなった娘ハンナの記憶が突然、蘇ってくる。なぜだろうか。

 

エイリアンの表意文字には時系列がなかった。円環したような文字の視覚言語だった。彼らの言語を理解し始めたルイーズはなぜか未来を過去のように語り、過去を未来のように話す。ルイーズは未来が見えるようになっていた。

エイリアンは3000年後、「人類が私たちを助けに来るから、そのために人類を助けに来た」というメッセージを残して去ってゆく。それはウィンウィンの関係であり、数学的には「非ゼロ和サムゲーム」と呼ばれるものだった。

 

未来が見えるようになったルイーズには娘ハンナが若くして死ぬことが分かっていた。それでもその未来を選択するのは、ハンナと暮らす瞬間がかけがえにないものだからだ。

 

これはハンナの物語。「HANNAH」どちらから読んでも「HANNAH」、そこは文字だけではなく、時間が円環する世界だった。

レクイエム・フォー・ドリーム 2000年

堕ちてゆく恐怖と恍惚

アメリカ、ダーレン・アロノフスキー

夏から始まり、秋、冬へと続く物語。春はやってこない。

ニューヨーク、一日中テレビを観て暮らす孤独な未亡人サラ、息子のハリーは定職に就かず、恋人のマリオンとデザイナーズショップを開くことを夢見ていた。

ハリーは友人のタイロンとヘロインの密売を始め、一時は成功するが長くは続かなかった。ハリーは「またよくなるさ」と泥沼にはまりこんでゆく。

一方、サラはテレビの視聴者参加番組への出演依頼の通知を受ける。有頂天になり赤いドレスを着ていこうとするが、肥えてしまって着ることができなかった。

 

胡散臭い医者の減量薬を飲みだす。しかしそれは危険な薬物だった。やがて異様な音が聞こえ、冷蔵庫が動き出すという幻覚を見るようになる。妄想に囚われ、瞬く間に顔が異様に変化してゆく。

ハリー、サラ、マリオン、タイロンは薬物依存に陥り、瞬く間に破滅してゆく。サラは精神科で電気ショック療法をうけ、ハリーは片腕を失い、マリオンは身体を売り、タイロンは過酷な刑をうける。

 

彼らには永遠に悪夢が続くのだ。しかしそれは夢ではなく、紛れもない現実だった、ドラッグは人を破滅させるというより破壊させるものだった。

 

どこにも救いはないが、堕ちてゆく恐怖と恍惚を感じさせ、サディスティックなおもしろさのある映画だった。

アロノフシキー監督には「ブラック・スワン」「レスラー」という優れた作品がある。

中村うさぎ「私という病」

「どうして私は、女であることを、おおらかに正々堂々と楽しめないのか」これが中村の長年の疑問だった。

中村が買い物依存症、ホスト依存症の次に体験したのが「デリヘル嬢」だった。47歳なのに32歳と偽って面接を受け、採用された。源氏名は「叶恭子」だった。しかし勤めたのは三日間でお客は11人だった。

 

「今回のデリヘル嬢体験で最も興味深かったのはデリヘリ嬢をやった私に対する世間の反応であった。露骨に嫌悪を表明し、風俗嬢に対する差別意識を臆面もなく曝け出したのは、女たちではなく男たちだった」

「あなたの母も妻も娘も、売春婦も・・すべての女は神でも獣でもない、あなたと同じ生身の人間なのだ」

 

1997年、東電OLが渋谷道玄坂のアパートの一室で死体となって発見された。

「昼は大企業のエリートキャリアウーマン、夜は通りすがりの男に身体を売る街娼」当時「東電OLは私だ」と直感した女たちは少なくなかった。

 

「私の意志を無視し、私の肉体を性的対象として扱うことは許せない。痴漢やセクハラをされた時、『人間性』を踏みにじられたかのような屈辱を感じるのは、そのためだ」

「自分の苦しみの正体がわからず、ただただ苦しみから這い上がろうとして、ますます泥沼にハマってしまう女たちよ、私を見よ、東電OLを見よ。我々はあなたがたのグロテスクな鏡像だ。我々の存在から発せられるメッセージを真摯に受け取って欲しい」

 

「女であること」を過剰に意識した結果こそが、「私という病」の根源なのだと彼女は語る。

「脳はみんな病んでいる」の中で池谷と中村は「自分は自閉スペクトラム症」で周りの空気を読めなくて、生きづらいと話す。

精神科医X氏は高学歴の人に自閉スペクトラム症は多く、それは異常ではなく個性だと言い、二人を自閉スペクトラム症と診断した。その診断書が巻末に載せられている。

 

自閉スペクトラム症とは対人関係が苦手、強いこだわりといった特徴をもつ発達障害の一つ。自閉症アスペルガー症候群などをまとめて表現する言葉。