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映画に関する短いエッセイとその他

宮本武蔵 一乗寺の決斗

宮本武蔵 一乗寺の決斗

1964年、日本、内田吐夢監督

 武蔵は柳生の里で柳生石舟斉の教えをうけることはできなかったが、二刀流を開眼して、京の都に戻ってきた。そして室町以来の名家、吉岡一門との果し合いにのぞむ。吉岡清十郎を一撃で倒し、その弟伝七郎と雪の降る三十三間堂で決斗をする。身の凍るような境内の雪が決斗の熾烈さを物語っている。

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その一方、武蔵のまわりには、お通、佐々木小次郎、お杉ばば、本阿弥光悦、青木丹左ェ門、吉野太夫などがあらわれては消えてゆく、島原遊郭吉野太夫が琵琶の胴を割って「この空洞が無限の音を生み出す、あなたの心には緩みがないからすぐに切れそうだ」と諭す。

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映画「一乗寺の決斗」はなんといっても武蔵と吉岡一門73人との決斗シーンが凄まじい。夜明け前の一乗寺下がり松、ロングショットで墨絵のような水田風景が美しい。灯りをもった吉岡の門弟たちが畦道を歩く姿が幻想的だ。

当時の時代劇としては泥田のなかを転びながら二刀を振り回す殺陣は衝撃的だっただろう。狂ったように二刀をふりかざし、叫びながら逃げる武蔵、それは狂人の姿だった。日本映画史上にのこる屈指の決斗シーンであることは間違いない。

この果し合いで武蔵は情け容赦なく名目人である幼い子供を殺し、そのことで周りから鬼畜、外道、羅刹と罵られる。「我、ことにおいて後悔せず」と自分にいいきかせ、一心不乱に仏像を彫る。武芸者の物語にみえながら実は仏の道を探す求道者の物語でもあった。