自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

トニー滝谷

2004年、日本、76分、市川淳監督、原作は村上春樹 

トニー滝谷は本名だった。母は彼が生まれてすぐに亡くなった。父の滝谷省三郎はジャズミュージシャンでトニーは売れっ子のイラストレーターだった。省三郎もトニー滝谷も孤独だったが、二人とも自分が孤独だとは気づかなかった。孤独というものを知らなかったからだ。

独りで生きてきたトニーは初めて英子という女性に恋をして結婚する。とても幸福だったが英子は洋服や靴を買わずにはいられない依存症だった。ある日、突然彼女は交通事故で亡くなり、多くの服や靴が残された。

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一人残されたトニーは深い孤独にさいなまれる。英子が亡くなってトニーは初めて孤独というものを知った。トニーは残された服を着せるためだけに英子とよく似た久子をアシスタントとして雇った。

亡くなった英子の衣裳部屋に入った久子は、あまりにも多くの高価で綺麗な服や靴をみて、思わず泣き崩れる。その部屋には虚飾とは言い切れない人間のもつ哀しさがあった。なぜ服を買わずにいられないのかと英子に問うても答えることが出来なかっただろう。

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トニー滝谷と英子は「豊かでモダンな孤独」を抱えながら「無機質な世界」住んでいたのかもしれない。

この映画の空虚で明るい透明感は、私たちの混沌とした世界にはないものだ。それは不思議で魅力的で孤独な世界だ。言葉にできない感性的な映画だった。