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映画に関する短いエッセイとその他

ナサニエル・ホーソーン「ウェイクフィールド」

合理的な解釈が成り立たない不可解な話

1835年に発表されたナサニエル・ホーソーンの短編「ウェイクフィールド」を世界的な短編作家であるホルヘ・ルイス・ボルヘスは「ホーソーンの短編のうちの最高傑作であり、およそ文学における最高傑作のひとつ」と評価している。

 

 「何かの古い雑誌か新聞で、ある男の物語が実話として語られていた・・・夫(ウェイクフィールド)は旅行に出ると偽って、自宅の隣の通りに間借りし、妻にも友人にも知られることなく・・・二十年以上の年月をそこで過ごしたのである。その間、男は毎日己の家を目にし、ウェイクフィールド夫人のよるべない姿を頻繁に見かけもした」

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「そして、結婚生活の至福にかくも長き空白をはさんだ挙句に、彼の死が確定されたものと見なされ、財産も整理されて、その名も記憶の外に追いやられ、妻もずっと前に人生の秋の寡婦暮らしを受け容れていたところへ、ある夕暮れどき、あたかも一日出かけていただけという風情で、男は静かに自宅玄関の敷居をまたぎ、終生愛情深い夫となった」

  どこか「リップ・ヴァン・ウィンクル」を思わせるような話だが、二十年以上も一人で暮らしていた妻の心の内はどうだったのだろう。なによりも二十年以上も隠れて暮らし、妻の生活を垣間見ながら、平然として再び妻のもとに帰ってきた夫が不気味だ。

もしかしたら私たちと家族や世の中との結びつきはそれほど強くないのかもしれない。

 2016年の映画「シークレット・ルーム」(原題:Wakefieldはこの短編が原作になっている。