そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア
高野は無政府状態のソマリアを2009年と2011年、取材で訪れた。ソマリアは民主国家「ソマリランド」海賊業の「プントランド」戦国状態の「南部ソマリア」に分かれている。
ソマリ人には昔から拉致文化があり海賊になるのは田舎の漁師かラクダ飼いだ。海賊は人質を傷つけることはまずない。身代金は人質に支払われるものではなく、実は積み荷に払われる(石油がいちばんいい)。どんなも揉め事(殺人でも)もカネで解決するという慣習がある。
ヨーロッパでは海賊が刑務所に入っても、自分の故郷より快適であり、刑期を終えた元受刑者が「こんないい国に住みたい」と亡命を希望する例が続出している。
高野によれば現在、在日ソマリ人は約10人、そのうち4人が海賊だという。持ちカネが少なくなった高野は仲間たちと海賊をやろうと計画をたてる。
イスラム教徒のソマリ人はもともと国境なき遊牧民で気性が荒く、せっかちで、原理主義者の残忍な殺し屋集団アル・シャバーブを最も恐れている。
イスラム国家もいちばん恐れているのは原理主義の過激なイスラム教徒だ。すべてはアッラーのものなのだから、軍人や政治家を認めない。宗教指導者だけに従う。
カートとはニシキギ科の覚醒植物で、葉っぱを食べると体の芯が熱くなり、意識がずっと持ち上がる感じがして、気が大きくなり、恐怖心がなくなる。
カート宴会で高野もカート中毒になってしまう。もちろん副作用(疲労感と便秘)もある。
難民の家族が笑顔を見せるのは幸せだからではなく、逃げ出してホッとしているからだろう。「大やけどで死ぬかもしれない子供を抱いて微笑む母親」の写真は現地の悲惨さを伝えている。
争いで氏族間の憎しみが強くなるのを防ぐため、娘を被害者の家に嫁がす。最初は苛められるが子供が産まれると違ってくる。どちらの氏族にも孫ができるからだ。「殺人の血糊は分娩の羊水で洗い流す」
ソマリランドは氏族社会で国民という意識はあまりないが政治的には「西欧民主主義をこえたものがある」という。ソマリランドの人びとは治安の良さに満足している。ただめぼしい産業がないので、海外居住者からの送金に頼っている。
「見てきた物や聞いた事、今まで覚えた全部でたらめだったら面白い・・」好奇心をくすぐる本で、あまりにも面白くて一気に読んでしまった。