映画「愛を読むひと」では文字の読めない女性が本を読んでもらうことに至上の歓びを感じていた。「読書する女」は朗読を職業とする若い女性の物語。
本を読むことで世界が違って見える。
私の読書体験はモーリス・ルブラン「怪盗ルパン」やジュール・ヴェルヌ「地底旅行」から始まった。でも本格的な読書体験といえるものは、高校生の時に読んだ2冊の本だ。
一冊はロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」で、若い男二人の友情物語で、一人の男は強く逞しくなってゆく。それはもう一人の男から多くのことを学んだからだ。強いものは弱いものから学ぶ。
もう一冊はドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」で、敬虔なクリスチャンであっても、もしキリストの時代に生まれていれば、イエスを殺すだろう。
今、読めば違う感想を持つかもしれないが、当時は目の前の世界が違ったように見えて衝撃的だった。
若い頃、同じ無職仲間の友人と徹夜のアルバイトに行った。仕事が終わり疲れた体で新宿の「ションベン横丁」の安い飯屋で朝食をとった。温かいご飯とみそ汁と煮物で久しぶりに満腹になった。
私は残りのアルバイト料を大切に持って帰ったが、友人は欲しかった高価な本を買い、大事そうにその本を抱えて家に帰った。