滅びた文明を訪ねてみたい
世の中に旅行者はたくさんいるが時間旅行者はまずいない(と思う)。
もし私が時間旅行者だったら江戸末期、明治初期(1850年頃)の日本を訪ねてみたい。その時代に日本を訪れた多くの西洋人が日本の生活と日本人の印象を書きしるしている。
渡辺京二「逝きし世の面影」にそれが紹介されていた。当然のことながら西洋人たちは日本について批判も称賛もしていた。しかし一様に驚いていたのは日本の自然景観の美しさだった。
時間旅行者となってその時代の江戸、大坂、京都、そして私の住んでいる町を訪ねてみたい。どのような景観だったのだろうか。西洋人に「妖精の国」「絵のような社会」といわれた日本にはどのような世界が広がっていたのだろう。
渡辺はこう語っている。「私の意図するのは古きよき日本への哀惜でもなければ、それへの追慕でもない」「この国の文明が、人間の生存をできうる限り気持ちのよいものにしようとする合意とそれにもとづく工夫によって成り立っていた」
「ダークサイドのない社会などない。いかなるダークサイドを抱えていようと、江戸期ののびやかさは今日的な意味で刮目に値する」「しかし、人類史の必然というものはある。古きよき文明はかくしてその命数を終えねばならなかった」
時間旅行者となって滅びた江戸末期の文明と美しい景観を「日本人の眼」で確かめてみたい。