自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ライアル・ワトソン「エレファントム」

ゾウとクジラ

福岡伸一は「動的平衡」のなかでライアル・ワトソンの「エレファントム」をこのように紹介している。

「象は太古の昔からずっとヒトを見守ってきた。象たちは、ヒトの祖先が樹から降り、森林から草原に出てきたときも、そっと場所を譲ってくれたほどだ」

 

1990年、一世紀ほど前に500頭もいた象の群れは、ついに一頭になった。それは推定年齢45歳、人々から「太母(メイトリアーク)」と呼ばれる雌だった。その象が行方不明になった。ワトソンはアフリカの台地が突然、崖になり、その下の海面に垂直に落ち込む場所に佇むメイトリアークを見つけた。

 

「この偉大なる母が、生まれて初めての孤独を経験している。それを思うと、胸が痛んだ・・・しかしその瞬間、さらに驚くべきことが起こった」

 

シロナガスクジラが海面に浮かび上がり、じっと岸のほうを向いていた・・・太母はこの鯨に会いにきていたのだ。海で最も大きな生き物と、陸で最も大きな生き物が、ほんの100ヤードの距離で向かい合っている。そして間違いなく、意思を通じあわせている。超低周波音の声で語りあっている」

 

「この美しい希少な女性たちは、ケープの海岸の垣根越しに、お互いの苦労を分かち合っていた。女同士で、太母同士で、種の終わりを目前に控えた生き残り同士で」

やがて人類もこんな日を迎えるだろう。