自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

ある男 2022年

アイデンティティを喪失した男のミステリー

日本、石川慶監督、121分

息子と暮らすシングルマザー里枝は口数の少ない谷口大祐と再婚をする。やがて娘が生まれ、4年近くの幸せな日々が過ぎた。ところが大祐は不慮の事故で亡くなってしまう。

一周忌に大祐の兄が現れるが、遺影を見て「これは大祐ではない」という。ではこの男はいったい誰なのか。なぜ、別人に成りすましていたのか。

息子が「父さんが死んで悲しいというより、寂しいね」と里枝に言う。

 

里枝は以前に離婚のことでお世話になった弁護士の城戸に「大祐」の身元調査を依頼する。城戸は戸籍の売買で服役している小見浦を訪ねるが翻弄される。

 

「大祐」は殺人犯の息子であるという過去をすてようと、二度の戸籍交換をして身元を隠していたのだ。

ラストシーン、カメラはバーで会話をする城戸と初対面の男の後ろ姿を捉える。城戸は在日三世であり、妻は浮気をしていた。彼はこの現実から逃れたくて、「4歳の娘と13歳の息子がいる。この幸せな生活は捨てられない」と「大祐」の家族状況をあたかも自分のことのように話す。

城戸もまた「大祐」に成りすまそうとしていた。

 

城戸が初対面の男に自分の名前を告げようとするところで映画は終わる。「城戸」と言うのかそれとも「谷口大祐」と言うのか・・人間の深い闇に入り込んだような終わり方だった。