自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

聖なる鹿殺し 2017年

古代の悲劇が現代ではホラーになる 2017年、イギリス、アイルランド、ヨルゴス・ランティモス監督 不穏な空気がこの映画のすべてを包み込んでいた。 心臓外科医スティーブンは眼科医の妻アナ、娘キム、息子ボブと郊外の豪邸に住んでいた。幸せそうに見え…

ロスト・イン・パリ 

映画のような絵本、もしくは絵本のような映画 2016年、フランス、ベルギー、ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン監督 雪深いカナダの小さな村の図書館司書をしているフィオナにパリで暮らすマーサおばさんから手紙が届く。「助けて」と書かれていた。88歳…

少年から大人に変わる時

徳永英明「壊れかけのRadio」 「♪思春期に少年から大人に変わる 道を探していた汚れもないままに・・♪」 もちろん人によってさまざまだろうが、男はいつ少年から大人に変わるのだろう。 ずいぶん前の話だが、淡路島で田舎生活をしている遠い親戚の家で長い夏…

東京暮色 1957年

人生は思い通りにはいかない 1957年、モノクロ、日本、小津安二郎監督 銀行員の杉山は男手一つで二人の娘を育て上げた。姉の孝子は夫と離婚寸前で実家に戻ってきており、妹の明子は遊び人たちと付き合い、その内の一人と肉体関係を結び、妊娠していた。母親…

トランス・ワールド 2011年

「Enter Nowhere」どこにも行けない 2011年、アメリカ、ジャック・ヘラー監督 田舎町の食料品店を襲う男女2人組。店主に向かって銃を撃つ。 深い森の中をさまよう3人の男女、サマンサ、トム、ジョディは廃屋のような小屋で初めて出会う。この森では不思議な…

アウェイ・フロム・ハー 

クマが山を越えて見つけたもの 2006年、カナダ、サラ・ポーリー監督 原作はアリス・マンローの短編「クマが山を越えてきた」 アルツハイマーにおかされたフィオーナは「一度忘れるとすべて消えてしまう。自分が消え始めていく。ついに来たのよ」 夫のグラン…

スロウ・ウエスト 2015年

西部の歩き方 2015年、イギリス、ニュージーランド、ジョン・マクリーン監督 スコットランドの貴族で16歳のジェイは「西部の歩き方」という手引書を携え、愛する女の後を追ってスコットランドからアメリカ西部に渡った。女の名前はローズ。 1870年、コ…

ピート・ハミル「ニューヨーク・スケッチブック」

ニューヨークを舞台にした34の短編 最後の一編を少しアレンジしてみた 老女優は毎日、プラザホテルで昼食をとっていた。そこは果敢に時の流れに抗しているので彼女のお気に入りのホテルだった。彼女の肌にはしわができカサカサになっていた。もう昔のよう…

パレード 2010年

ポジからネガへの反転 2010年、日本、行定勲監督 東京、ルームシェアをする男女4人、映画会社に勤める28歳の直輝、21歳の大学生良介、23歳の無職琴美、24歳のイラストレーター兼雑貨屋店長の未来。そこに18歳の男娼サトルが加わって5人になる。近くで起こっ…

シェイプ・オブ・ウォーター

水の形とは 2017年、アメリカ、ギレルモ・デル・トロ監督 1960年代のアメリカ、政府の秘密研究所で清掃員として働くイライザは声を出すことが出来なかった。アマゾンで神と崇められる不思議な生き物が研究所に持ち込まる。それは映画の半魚人のような姿…