自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

稲垣えみ子「寂しい生活」

 

51歳独身女性の節電生活

女性の書くエッセイはどうしていつも面白いのだろう。

事の発端は原発事故後の節電だった。最初は掃除機から始まった。ほうきと雑巾で間に合った。やがて冷蔵庫をなくすという革命が起こった。

 

ついには電気というものをほとんどやめてしまい、水道もほんのわずかしか使わない生活になった。ついでに仕事(朝日新聞社論説委員編集委員)もやめた。

何かを手に入れることは、何かを失うこと。「あれば便利」はいつの間にか「あって当たり前」になる。生きていくために必要なモノはほんのちょっとしかない。家電は女性を解放したのかと問い、生きるって面倒くさいとも思う。

 

順調な節電生活だったが、神戸から東京に引っ越した。ところが知らずにオール電化マンションに入居してしまった。風呂もコンロも電気だった。ここからまた闘いが始まる。

しかし幸運にも理想の借家を手に入れた。かつてのオリンピックが終わった直後のレトロ物件で、冷蔵庫置き場も洗濯機置き場もない。押し入れもクローゼットも靴箱もコンロもない。とうとう電灯、ラジオ、パソコン、携帯だけの生活になり、電気代はひと月150円ほど。

 

小さな、寂しい生活だが、もしかするとこれが最高の生活なんじゃないかと彼女は思ったりする。「なくたって生きていける」という衝撃。

 

思わず笑みがこぼれるエッセイで人生が軽くなった。