どうしようもないことがある
しばらく音信のなかった女友達から電話がかかってきた。今、入院しているという。涙声で「私、何か悪いことをした?」という。普段、気風が良くて自立心の強い女性だったので、その痛々しい口調に私はすこし戸惑った。
「そんなことはない、病気になったのは運不運だよ」としか言えなかった。
わたしが見舞いに行くとそれほど身体が弱っているようには見えなかった。それでも以前のように波乱の人生を乗り越えてきた力強さはなかった。しばらく経ってからまた電話があり、「ガンが大腸に転移している、多分、今年いっぱいだと思う」と悲痛な声。
それが2年ほど前のことでその後、連絡が取れなくなった。いろいろな事情を重ね合わせると、おそらく亡くなったのだろう。心残りがたくさんあったと思う。
映画の好きな彼女と二人で何度か映画を観に行ったことがある。初めて観たのがマーク・ハーマン監督「ブラス!」で彼女はとても感動していた。
返答に困って口にした言葉「運不運」。もちろんすべてを「運不運」で片づける事は出来ないが、人生には「運不運」がけっこうあると私は思っている。いくら頑張ってもどうしようもないことがある。
学生時代を除けば私の人生はずっと「低空飛行」だったが、不思議と一度も「墜落」することがなかった。「低空飛行」そのものが不運だという人もいるが、私は「墜落」しなかったことが幸運だったと思っている。
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