自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

愛に関する短いフィルム 1988年

彼女は何を見たのか

ポーランド クシシュトフ・キエシロフスキー監督

「デカローグ」全10話は 1989年~1990年に製作されたポーランドの60分程度のテレビドラマ・シリーズ。あまりにも完成度が高くヴェネチア国際映画祭などで絶賛された。

その第6話を再編集したのが「愛に関する短いフィルム」で映画版とテレビ版とでは結末が違っている。

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19歳の郵便局員トメクは一年前から午後8時半になると向かい側のアパートの部屋を望遠鏡で覗き見していた。そこには年上の美しい女性マグダが住んでいた。マグダは次から次へと男たちを引きこんでは情事にふけっていた。

 

トメクはマグダに会いたくて偽の為替通知書をポストに入れ、ミルクの配達のアルバイトをしていた。施設育ちのトメクは友人の母親のアパートで暮らしていた。

 ある夜、トメクが覗き見するとマグダが独りぼっちで泣いている姿が見える。トメクは「どうして人は泣くのだろう」と友人の母親に訊く「人は様々な理由で泣くわ」

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トメクはマグダの前に現れ覗き見を告白する「なぜ、私をつけまわすの」「愛しているから」

デートの後、マグダは彼を部屋に招待して、挑発するように太ももに触れさせる。

「キスしてほしいの」「ノー」「寝たいの」「ノー」「なにがほしいの」「何も」「愛なんかないわ」「ある」「幻想よ」

 やがてトメクは彼女の肌に触れているうちに「イって」しまう。マグダは「これが世間でいう愛の正体よ」トメクはたまらなくなって自分の部屋に駆け込む。そして剃刀で手首を切り、病院に運び込まれる。

 

トメクは命を取りとめ部屋に戻ってきた。マグダは「悪かったと」と謝りに行く。友人の母親は冷たい態度で彼女を部屋に招き入れる。マグダが部屋に置かれていたトメクの望遠鏡を覗くと、そこに見えてきたのは独りぼっちの夜、泣いている自分の姿だった。そして・・・

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彼女が見たのは幻影だったのか。一瞬、愛の見えることがある。