戦争は終わっていなかった
フランス アンリ・コルピ監督
1960年、パリはバカンスで閑散としていた。セーヌ川の近くでカフェを営むテレーズ、店の前を「♪空がほほえみ、美しい光がさしてくる・・♪」と歌いながら通る浮浪者が、16年前にゲシュタポに連れ去られて、その後、行方不明になった夫アルベールではないかと思う。
その男は記憶喪失で過去をすべて忘れていた。なぜか男は警官や狭い部屋に入ることを異様に怖がっていた。
その男をアルベールの叔母と甥に会わせるが叔母は否定的だった。それでも夫だと信じたテレーズは彼を晩餐に招待し、記憶が戻るかもしれないと思い夫の好きだったブルーチーズを出す。
そして懐かしい曲でダンスを踊るが、記憶は戻らない。テレーズは男の後頭部を触り、そこに脳手術の跡があることに気づく。男の記憶はもう戻らないとテレーズは泣き崩れる。
やがて男が夜の町に出ていくと、「アルベール・ラングロワ!」と周囲から呼ぶ声が聞こえる。男は立ち止まり両手を高く上げる。
ゲシュタポに連れ去られた恐怖の記憶だけが戻ってきた。その時、私たちもアルベールと同じように両手をあげ、言葉にできない恐怖に怯えてしまう。
「夏はだめ、冬が来ればぬくもりが欲しくて戻ってくる」とテレーズは夫アルベールが帰ってくるのを待つ。
ゲシュタポに連行される恐怖と「アルベール」と呼ぶ声が胸に突き刺さる傑作だった。