高田純次のいい加減さと調子のよさには笑ってしまうが、脱力系の柔軟さもある。
精神科医の香山リカ『堕ちられない「私」』はどこか高田純次と通じるものがあるような気がした。
香山はこのように書いている。
うつ病などの心の病にかかったり、ドラッグ、暴力などの問題を引き起こしたりするのは、実は、「堕ちる力」を失った人である。私は診察室でそのことに気づいた。
「堕ちる力」とは様々な制約や良識の束縛から逸脱しようとする力だ。人は上昇するより堕ちることで人間らしい生き方ができる。そこに初めて出会う幸せや快感がきっとある。
成長幻想でがんばりすぎてうつ病患者が増えている。ウツの患者に「やりすぎる必要はない」と治療すると症状が良くなった。患者は「おかげさまでまたがんばれます!」
がんばらないことが難しい社会になった。
不安をいっさいなくしたいという人がいるが、不安のない人生などありえない。不安というラベルを貼るから深刻になるだけだ。
強いポジティブシンキングは一見人生を豊かにするようだが実際はその反対の副作用を持っている。
80年代後半、高野文子「るきさん」という漫画があった。流行にも恋愛にも関心がなく、気ままな独身生活を送っている女主人公の取り立ててドラマもない日常を描いただけの作品だ。
当時の香山はこの漫画にホッとするものを感じていたという。