自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

赤い殺意 1964年

土俗性としたたかさ

日本、今村昌平監督

家の横を蒸気機関車が爆音をたてて通り過ぎてゆく。二匹のハツカネズミが籠のなかで走り回っている。オープニングからただならぬ気配が漂ってくる。空腹のハツカネズミがもう一匹のはらわたを食いちぎってしまう。

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東北の町、夫の出張中に強盗犯にレイプされた人妻貞子、一度は機関車に飛び込んで死のうとするが、子どものことを思うと死にきれなかった。

肺病やみの強盗犯平岡は再び貞子の家に押し入り、レイプする。その後。何度も貞子の前に現れる。家庭を守るため「仕方ない」と貞子は身体を許すがいつしか性の快楽におぼれてゆく。

 

夫の吏一は喘息の病気もちで傲慢、吝嗇、小心な男で職場の女と不倫関係を続けていた。

貞子は妾腹の子だという理由で入籍されず、子どもは夫の母親の籍に入れられていた。因習的な家族制度と夫婦関係が今なお残っており、貞子は女中扱いされていた。

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やがて貞子は妊娠する。「一体、誰の子どもなのだろう」貞子は農薬入りのお茶で平岡を殺そうと計画する。

 

生命を産む女にはしたたかさがあった。貞子はどこまでもしらを切り、いつの間にか夫を操り、入籍を果たし、編み物教室をひらき、自立への道を切り開いてゆく。

土俗的な陰鬱さが物語を覆っていたが、地の底から湧き上がってくるような可笑しさもある映画だった。