自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

映画のワンシーンのように

押し花

 今までは前ばかり見ていたのに、人はある年齢になるとふと後ろを振り返るようになる。そして今まで出会った人と別れた人のあまりの多さに驚く。過去の「出会いと別れ」が映画のワンシーンのようによみがえってくる。

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1995年の阪神淡路大震災で会社の上司が被災したので私はその上司の自宅にお見舞いに行った。上司が住んでいたのは地滑りのあった西宮市の閑静な住宅地だった。

 もちろん自宅を訪問するのは初めてで上司の奥さんとも初対面だった。最初は飲料水と食料品を持っていこうと考えていたのだが、当時、お金がなくて仕方なく駅前で安い花を少しだけ買っていった。後でどうして花など持って行ったのかと後悔して少し情けなかった。

 

それから数年後、その上司は膵臓ガンで痛みに苦しみながら極端に痩せて亡くなった。お葬式に私は参列した。たった一度しか会ったことのない私を奥さんは覚えていて声をかけてくれた。

 「あの時、お花を持ってきてくれた方ですね。ありがとうございました。被災して落ち込んで暗い気持でしたが、あの花を見ているうちに主人と二人、元気がでてきました。そしてすぐに花瓶を用意して花を活けました。そのあと、押し花にして今も大切にとってあります」

 

思いもしなかった言葉に私は恥ずかしくなった。