ほんのささやかな物語
フィンランド、クラウス・ハロ監督
1970年代のフィンランド、終身刑のレイラは恩赦によって12年の刑期で出所してきた。行く当てのない彼女は盲目のヤコブ牧師のもとで働く。
仕事はヤコブ牧師宛に届いた手紙を読み、返事を書くことだった。しばらく経って恩赦を請求したのはヤコブ牧師だったという意外な事実が分かる
毎日、牧師への相談の手紙が届きレイラはそれを読むが、いいかげんうんざりしてくる。ところがある日からばったりと手紙がこなくなる。手紙を読むことだけが生き甲斐だった牧師は気力をなくしてゆく。
「人のために祈るのが私の使命、誰も私を必要としていないのなら、神も私を必要としていない」と嘆く。
レイラは「私も恩赦など頼んでもいなかった、あなたの自己満足」とヤコブ牧師を冷たく突き放す。
レイラは牧師館を去ろうとするが、思い直して手紙が届いたと嘘をつき、手紙を読むふりをして自分の身の上を語る。そしてなぜ人を殺したのかを話す。
その話を聞いて牧師は何も言わず手紙の束を持ってきた。その手紙の束は同じ人物が長い間、送り続けてきたものだった。ヤコブ牧師はその手紙の差出人の願いを聞き入れて恩赦を申請したのだった。
そしてレイラに読むように促す。手紙を読んだレイラの眼から涙がこぼれた。やがて彼女はヘルシンキに向かう。
フィンランドの誰も訪れることのない寂れた牧師館が、このささやかな物語にはふさわしい舞台だった。
主な登場人物はレイラ、ヤコブ、郵便配達人の3人だけで、しかも76分という小品だが余分なものをそぎ落とした端正な逸品。