でも、たまにはいいこともあるさ
現代日本の文学を代表する、個性豊かな作家12名が、文学の入り口に立つ若い読者へ向けた中短篇の自選アンソロジー。
村上春樹 村上龍 よしもとばなな 宮本輝 宮部みゆき 浅田次郎 川上弘美 小川洋子 重松清 桐野夏生 山田詠美 林真理子
「デッドエンドの思い出」のなかにこんな文章がある。
「カレーを作っていて、たまたま残ったヨーグルトやスパイスやりんごなんかを入れているうちに・・・本当に百万分の一の確率で、ものすごくおいしいものができてしまったような、でも、二度とは再現できない、そういう感じの幸せだった」
「おやじの味」はこの文章で終わっている。
「生きていることには本当に意味がたくさんあって・・生きていることに意味をもたせようとするなんて、そんな貧しくてみにくいことは、もう一生よそう、と思った」
あとがきの「読んでくださった若い人たちへ」はこのように締めくくっている。
「私は、実際に会ったら、ケチでずるく腹も出てるし白髪も目立つ単なる口の悪いおばさんですが・・・小説の世界では言葉で魔法を使います。・・・この世に生まれたことをなんとか肯定して受け入れようではないか、だいたいが面倒で大変なことばかりだけれど、ふとしたいいこともあるではないか、そういうことを言葉で表したいのです」
誰にも何にも期待していない時に、たまたま訪れたささやかな幸せ・・スゴイというのではないが、ほっこりとする短篇集。