自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

傷痍軍人

戦争が見える

浅田次郎の短篇小説「金鵄のもとに」を読んでいると物乞いをする傷痍軍人が登場してきた。すっかり忘れていた一つの記憶が蘇ってきて、私はある光景を思い出した。

 それは随分前のことだが、場所は大阪、阪急電車の十三駅のガード下で傷痍軍人が白い病衣を着て帽子をかぶり松葉杖をつき、物乞いをしていた光景だ。

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子どもの頃、傷痍軍人を見た記憶はあるが、大人になってからはあの一度だけだった。まだこのような人がいたのかと、タイムスリップしたようだった。時間の裂け目から現れたような気がした。通行人たちは避けるようにして通り過ぎて行った。私はしばらくの間、茫然とした。

片脚を失った傷痍軍人が物乞いをする姿を見た時、初めて戦争というものが見えたような気がした。

 

ほとんどの日本人にとって戦争はもう見えなくなった。今時、実際に傷痍軍人を見たという人すら、もうあまりいないのではないか。

 

かつての十三駅の線路沿いには戦後の闇市を思わせる安い飲み屋が並んでいた(数年前に火災で焼けてしまったが)ガード下も戦後の雰囲気を色濃く持っていた。