映画「夜と霧」を彷彿とさせる
ポーランド、マチェイ・バルチェフスキー監督、92分
1940年、ワルシャワでボクシングチャンピオンのテディはアウシュビッツ強制収容所に入れられ、過酷な労働に従事していた。ドイツ兵たちの娯楽としてリングに立たされる羽目になる。
将校は「娯楽はお前だけだ」と言い、テディは「ここでのボクシングはスポーツじゃない」と話す。
食べ物や医薬品を得るためにテディは試合で勝ち続ける。今日一日を生き延びるために闘う。
収容所では収容者たちが簡単に次々と殺されてゆき、死体はゴミ捨て場のような穴に乱雑に放り込まれる。テディが面倒を見ていた少年ヤネックも殺されてしまう。
一方、ユダヤ人たちは収容所に移送されてくると、行列をつくってガス室に送り込まれる。そして断末魔の悲鳴が聞こえる。
戦後、テディはボクシングのコーチをして、自分の思ったように生きてゆく。それがこの映画のたった一つの救いだった。
淡々と収容所内の出来事が描かれるが、それは衝撃的なものだった。ポーランド映画らしい陰鬱な映像が文章で表現する以上の衝撃をもって迫ってくる。
実話に基づく作品だったが、悲惨さと過酷さのなかにボクシングの爽快さが際立っていた。92分の中に、ずっしりと重いものが詰め込まれていた。