上質な短篇小説のような
深夜、野宿しながら全国を転々とする放浪者たちが焚火を囲んでいる・・アメリカの暗部を映し出すシーンから映画は始まる。
オレゴン州の田舎町、若い女性ウェンディは愛犬ルーシーとともに仕事を求めてアラスカに向かっていた。ホテルに泊まる金もなく、車中で眠り、トイレで歯を磨き、着替えをしていた。
ある朝、車が動かなくなったが、修理代もなかった。空き缶を拾ってお金に替えようとする。30ドル、50ドルといったお金さえ、ウェンディにとっては貴重なものだった。
ドッグフードもなくなり、持ち金も少なくなり、ウェンディは食料品店で万引きをするが、警察に連行される。勾留されている間に店の前につないでいたルーシーがいなくなる。
ウェンディは町の中をルーシーの行方を捜す。野犬収容所にもいなかった。駐車場の老警備員が親身になってくれるがなかなか見つからない。ルーシーがいなくなれば、ウェンディはひとりぼっちになってしまう。
たったこれだけの物語で、しかも82分という小品。言ってみればいくつかの湧水が合流し、小さな流れになり、やがてそれが川になってゆくようだ。
結末が意外だったので記憶に残る映画になった。犬好きの人にとってはたまらなく心揺さぶられる物語であり、現代アメリカ文学の上質な短篇小説を読んだような気がした。