映画「ドライブ・マイ・カー」は高評価だが、とりあえず原作を読んでみた。
性格俳優の家福は「接触事故を起こし、免許証も停止になった・・それから視力にも問題があった」
仕方なく専属の運転手が必要になり、北海道からやってきた「渡利みさき」を雇った。家福にとっては娘のような24歳の優秀なドライバーだった。
「どのような見地からみても美人とはいえなかった」みさきの母は亡くなり、父は行方知れず。車は黄色のサーブ900コンパーティプル。
友達のいない二人は車のなかで会話する。
家福は美人俳優だった妻を子宮がんで亡くしていた。20年の結婚生活だった。生前、妻は何人かの男と浮気をしていて、その最後の男が俳優の高槻だった。
なぜ浮気をしていたのか、その理由を訊く前に妻は死んでしまった。もう永遠に訊くことはできない。
妻の死後、家福は高槻と友達になり、何度も酒を呑み交わす。高槻は家福の妻との関係を知られていないと思って安心していた。二人で妻の思い出を語り合う。
「はっきり言ってたいしたやつじゃないんだ。性格は良いかもしれない。ハンサムだし笑顔も素敵だ。・・でも敬意を抱きたくなるような人間ではない。俳優としても二流だった」
妻は意志が強く、底の深い女性だった。ゆっくり静かに考えることのできる女性だったのになぜそんな男に心を惹かれて、抱かれたのか。
みさきは「奥さんはその人に心なんて惹かれていなかったんじゃないですか。だから寝たんです」と言った。
話しつかれた家福は「少し眠るよ」と言った。「みさきは返事をしなかった。そのまま黙って運転を続けた。家福はその沈黙に感謝した」
村上春樹の小説はとても深い内容をいとも軽やかに表現している。そのギャップがどこか心に響き、魅力的だ。