水彩のように淡く、油彩のように深い
日本、市川準監督 92分
昔の風情が残る東京の下町、両親を亡くした兄妹、兄の健一は古書店に勤め、高校を卒業した妹の洋子は駅前の写真店で働いていた。
都電が走り、古い商店街や鬼子母神があり、鍋をもって豆腐を買いに行くような下町だった。兄は妹思いで、妹は兄の面倒をよくみて、まるで夫婦のように仲睦まじく暮らしていた。そのために健一の恋人は愛想を尽かして去ってゆく。
ある夜、健一は友人で写真家の真を家に連れてくる。洋子と真は付き合い始め、やがて同棲するようになる。それを知った健一は帰ってくるように電話するが、その願いは聞き入れられなかった。寒い夜、泥酔した真は急死する。
やがて洋子は家に戻ってきて以前のような二人だけの生活が始まる。しかし、ある夜、健一は洋子の待っている家に何故か入ることができなかった。兄妹二人の生活に終止符を打つ時がきたのかもしれない。
昭和の下町風景や人情、神社や食事が描かれ、短いカット割り、淡々とした映像が続く。何も起こらないのに何かが起きている。そんな静かな物語になぜか胸が締め付けられる。心に沁みてくる作品だ。