自由に気ままにシネマライフ

映画に関する短いエッセイとその他

せかいのおきく 2023年

江戸の糞尿譚

日本、阪本順治監督 89分

下肥買いの矢亮と紙屑拾いの中次は厠のひさしの下、雨宿りをしているときに、武家育ちで22歳のおきくと知り合う。下肥買いとは民家の糞尿を買い、それを百姓に肥料として売る仕事だった。

おきくは浪人の父と貧乏長屋で暮らしながら、寺子屋で子供たちに読み書きを教えていた。おきくの父は中次に言う「この空には果てがない、それが世界だ」

ある日、父は侍たちに斬り殺され、おきくは喉を切られ、声を出すことができなくなる。失意のおきくは長屋の住人たちや、和尚などの優しさに触れ、やがて生きる意欲を取り戻す。

彼女は下肥買いになっていた中次に仄かな想いを抱いていた。雪の降る長屋のシーン、おきくと中次の初々しい恋、それが胸に沁み込んでくる。

墨絵のようなモノクロ映像でありながら、糞尿を汲み取るシーンでは臭いが漂ってくるようだった。

 

社会の下層で生きる人にとっては厳しく、つらい江戸時代末期の安政五年(1858年)から万延元年(1860年)までの物語で、3人の若者たちの青春映画。やがて開国を迎え、日本人は「世界」を知ることになる。

 

上質の短篇小説を読んだような気分になり、89分の小品だが小さくキラリと光るものがあった。